田中浜がすごい!防災林造成でL1防潮堤機能

あんなに注目された防潮堤も、震災10年が過ぎて落ち着き始めています。

そんな中、気仙沼市の大島で画期的な『防潮堤』が完成しようとしています。

場所は太平洋側の国立公園内にある田中浜です。当初はレベル1津波を防ぐために海抜11.8mのコンクリート防潮堤を計画しましたが、防潮堤は原形復旧に変更し、防災林の造成工事によって整備する土の丘を防潮堤機能としました。

3面コンクリート張りの「粘り強い防潮堤」を求められてきた被災地にとっては、かなり珍しいケースだと思います。

【防災林とセットが条件の治山施設】

具体的な議論の始まりは2014年11月、所管する宮城県が開いた意見交換会(資料や議事録は県HPに掲載)でした。

担当は気仙沼地方振興事務所の林業振興部です。この防潮堤は林野庁管轄の「治山施設」のため、背後地に防災林のスペースを確保することが前提条件でした。

この条件により、大谷や尾崎は砂浜の保全に苦しめられたのですが、田中浜の場合は背後地が広かったため、砂浜をつぶさずに11.8mの防潮堤計画を示しました。

県の説明では、数十年から百数十年の周期で発生するレベル1津波では、明治三陸津波のシミュレーションで田中浜に最大7mの津波が襲来すると想定されています。その津波が10.8mまでせり上がるので、さらに余裕高1mを足して11.8mの堤防高としました。

その形状は圧迫感を軽減する緩傾斜堤(底幅70m)を提案しましたが。これだと体験施設を移転させなければならなくなるので、市の要望で半傾斜堤(海側は直立で背後は傾斜タイプ)とする案も加えました。

※最初の説明会で示された計画

【大島との島民が猛反対】

この防潮堤を造ると、東日本大震災級のレベル2津波の勢いを弱めることができ、浦の浜へ津波が越えていくことことを防げるという説明もありました。レベル1津波から守られるエリアには、ぎりぎり1軒の民家があるとのことでした。

安全優先の計画に賛成意見もありましたが、ここは「緑の真珠」とうたわれた大島の観光名所であり、「(コンクリートで覆われれば)観光の島には死活問題」と反対意見が続出しました。

【防災の丘でレベル1津波を防ぐ計画に変更。事業費は半分に】

代替案の検討が難航し、次の意見交換会が開かれたのは1年3カ月後の2014年2月でした。

ここで、既存の防潮堤を原形復旧(沈下分を海抜3.5mまでかさ上げ)したうえで、防災林の造成の中で海抜11.8mの「防災の丘」を整備することで、レベル1津波を防ぎ、レベル2津波も減衰させる新しい計画が示されました。

コンクリートを回避しただけでなく、事業費も半分になりました。当初の計画通りコンクリート防潮堤を整備すれば54億円を想定していましたが、27億円に削減される見通しが説明されました。

県はレベル1津波の想定浸水域を確認したところ、守るべきものを民家、農地、県道大島線と整理し、必要最低限の計画に変更したのです。

治山施設なので、防潮堤の海側に松林を整備することは不可能でしたが、防災の丘はできるだけ海から離し、丘の斜面を含めて植樹することが可能になりました。復旧した体験施設も残すことができます。

この意見交換会には菅原市長も出席し、変更案への理解を求めました。地域の人たちからは拍手が起き、県は「概ね合意した」と判断しました。

※防災の丘を整備するように変更した計画

【大島らしい緑の”防潮堤”に】

2015年2月にも地元説明会を開き、完成イメージが示され、階段の設置位置など細かい点を確認しました。7haの防災林を造成し、3.5万本のクロマツや桜を植栽する計画内容でした。

それから6年余り、工事は今月中にも完成の予定です。植えられた松はまだ1m多ほどと小さいですが、コンクリートが目立たない、大島らしい「緑の防潮堤」の姿が見えてきました。

最新の条件で行ったレベル2津波の再シミュレーション(2020年8月のブログに詳細)では、田中浜と浦の浜の間で越水する結果が出るなど、予想しなかったこともありました。それでも、脱コンクリートを目指したこのような事例は市内でも他になく、今後はもっとPRしていくべきだと思います。

※亀山から見た田中浜 2021.4.9撮影

 

※隣の小田の浜海水浴場も原形復旧となった。田中浜の背後を乗り越えると海の玄関口だった浦の浜がある

※防災の丘にはヤマザクラやコナラ、ケヤキなども植栽されている(白い袋は保護シート)

※海岸の防潮堤は原形復旧に変更。沈下した約1m分をかさ上げした

1 Comment

  1. 復興の見守り

    今川先生
    お世話になります。
    地域の方々が子供、孫達に「地域の良さ」を継承することに思いを巡らせながら、10年間粘り強く行政と議論・交渉されたことにより、こうした形で「まちづくり」に反映されることに感動しております。
    かつ、整備費用が54億円から27億円と約半分になっていることも素晴らしいですね。地域の方が計画策定から関わることで莫大な事業費を要する復旧・復興費を削減する効果があることも、この復興プロセスから見えてきました。
    予期される南海トラフや首都直下などの災害からの復興においても、こうした復興プロセスを今から行政・住民が一緒になって学んでおくべきと思った次第です。今後も情報発信のほど、よろしくお願いします。

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