復興10年で水道料金を23%値上げする理由【気仙沼市】

水道料金の値上げを検討してきた気仙沼市は、3月17日のガス水道事業運営審議会にその値上げ率を平均23.32%にする案を示しました。今後、正式に諮問・答申されますが、10月からの値上げを予定しています。

気仙沼市には大きな川がなく、リアス式で平坦な地形が少ないため、水道水の生産と供給にはコストがかかります。しかし、市町合併や東日本大震災で値上げのタイミングを逃し、38年間も料金を据え置いてきました。

新月ダム中止に伴う水源開発への投資に加え、人口減少による収益減も深刻化したため、経営は悪化しています。そのしわ寄せで水道管の更新が十分にできず、送水の途中で約3割もの水が漏れている問題もあります。

【震災後に経営難が表面化。需要減で収入減少続く】

気仙沼市では気仙沼大川をはじめ、鹿折川や八瀬川など7つの水系から水道水をつくっています。家庭だけでなく、水産業を主体とした地域産業に水道水は欠かせませんが、人口減少と産業の衰退に伴って需要は右肩下がりで、震災前の2010年度で年間857万㎥だった使用量が、2017年度には724万㎥に減少しました。人口推計に照らすと、2038年度には463万㎥になると試算されています。

水道事業には、浄水から配水までの費用を1㎥当たりの単価で計算した「給水原価」、収益から計算した「供給単価」(つまりは販売単価)という指標があります。給水原価より供給単価が高くならないと採算割れになるわけです。供給単価÷給水原価=料金回収率となり、これが100%以上であれば健全な経営となります。

【232円の水を213円で売っている状態】

気仙沼市の料金回収率は、老朽管の更新などにあまり投資をしてこなかったため、2010年度で123%でした。震災後は一時的に悪化した後に回復していますが、2017年度で93%、2018年度で92%にとどまっています。供給原価は横ばいで推移しているのに対し、給水原価は震災前の1.3倍となったことが料金回収率低下の原因です。

給水量の減少に伴う単価高は大きな課題です。料金値上げをしていないので供給単価は変わらないのに、需要減によって生産効率は低くなっているのです。施設規模がこのままで料金収入が減り続けると、経営難はより深刻になります。

2018年度の気仙沼市の給水原価(1㎥当たり)は232.92円で、全国平均の163.85円(日本水道協会調べ・2016年度)を大きく上回っています。供給単価は213.89円で、全国平均は172.80円でした。

【借金90億円。その多くは新月ダムの代替水源開発】

震災後に経営は悪化しましたが、市民や事業者の再建を支援するため、菅原市長は「震災から10年間は水道料金の値上げはしない」と宣言しました。

その間も借金(企業債)は増え続け、その残高は2019年度末に80億円、2020年度末には90億円となる見込みです。毎年4億円ほど返済していくのですが、利息だけで年1億円にもなります。

借金がここまで増えたのは、新月ダム中止の影響が大きいです。詳しくは2019年10月のブログ「新月ダム物語のその後。計画中止から19年」をご覧ください。計画中止によって、ダム建設の地元負担金約45億円がなくなった一方で、ダムに代わる水源開発に48.6億円も要したのです。ほとんどは借金で賄っており、2020~2052年度で37.4億円を返済しなければなりません。

なお、松川の地下水を汲み上げて館山を経由して新月浄水場へ送水するなどの水源開発は、ようやく2021年度から試験運転をはじめ、2022年度末の完成を目指します。

このほか、大島への配水を海底送水管から大島大橋に切り替えるため、7.4㎞の送水管とポンプ場などを整備する事業(2021年度に通水予定)にも20億円規模の費用をかけました。

【老朽管の更新遅れ、3割が漏水】

気仙沼市の水道事業には、もう一つ大きな課題があります。

管路の更新にお金を回せなかったため、老朽化が著しく、漏水事故の原因になりやすい鋳鉄管、地震に弱い石綿セメント管や硬質塩化ビニル管が多く残っていて、浄水場からの配水量に対して実際に家庭や事業所へ供給された水量の差が大きくなっています。その割合を示す有収率は2020年度で71.66%でした。簡単にいうと、3割近い水道水が途中で漏れていることになります。

震災前の2010年度は80.73%だったので、震災で悪化したことになります。全国平均は90.3%(2016年度)です。旧市町で見ると、旧気仙沼市は76.18%、旧唐桑町58.39%、旧本吉町57.3%です。

解決策は管路の更新ですが、旧気仙沼市で水道事業が始まった1930年(昭和5年)に敷設した古町の水道管更新をようやく2022年度に終える状態です。次は1950年代に敷設した管路に取り掛かり、毎年3億円ほど確保して3kmほど更新していく計画です。

しかし、総延長は728kmもあり、このうち1955~1964年度のものが12km、1965~1974年度のものは54kmあります。2017年度の時点で法定耐用年数を超えた管路が32%もありました。そして浄水施設などの老朽化も進んでいます。

【一般家庭で月1000円前後の値上げ】

ここまでは値上げの背景を説明しました。ここからは値上げの内容について説明します。

経営改善へ向けて、気仙沼市は第三者の視点でチェックしてもらうため、2017年に日本水道協会へ経営診断を委託しました。さらに経営コンサルティング大手のトーマツの監修で経営戦略を策定し、内部で検討を重ねた結果、平均23.32%の値上げが必要と判断しました。

人口減少、経常収支の黒字化を勘案し、コスト削減にも取り組む上での結論です。経営環境が変化する可能性があるため、5年ごとに見直しを検討します。

料金は口径ごとの基本料金、使用料に基づいた従量料金ごとに改定します。改定案は下表の通りですが、一般的な家庭は口径13㎜で水量20㎥ですので、月料金は現行の3278円が4059円に、781円値上がりします。

大口の企業だと年間2000万円の水道料金を払っている例もあり、その場合は単純計算で500万円ほどの負担増になります。

【県内14市で最安値 ⇒ 料金改定で5番目へ】

気仙沼市の水道料金は38年間も据え置いてきたため、県内14市で最も低く抑えられています。

料金改定後は5番目の高さになります。上位にある栗原、登米、角田、白石はいずれも気仙沼市より給水原価が高い自治体です。

旧気仙沼市エリアでは38年ぶりの料金改定です。旧本吉町、旧唐桑町は市町合併に伴って最も安かった旧気仙沼市の基準に値下げしましたが、旧本吉町は値上げ後も旧町時代より低い水準となります。

【市民、事業者への周知を】

今後のスケジュールは、市民や事業者に値上げ案を周知したうえで、4月中に審議会へ正式に諮問した後、市議会6月定例会へ関連議案を上程し、10月からの値上げを予定しています。

3月の審議会では、委員が値上げの必要性に理解をしめしたうえで、「市町合併時に将来のことも考えるべきだった」「一気に値上げすると影響が大きいので、段階的に値上げしてほしかった」「影響が大きい産業界には特に周知を徹底してほしい」「市民に分かりやすい説明を」などの意見があった。

市は管路更新を戦略的に行っていくこと、次の審議会まで市民にしっかり周知することなどを約束しました。

今後、負担が大きい水産加工業への支援策などが課題になると思います。

なお、下水道も受益者の適正な負担を検討中です。現在、2021年度にはストックマネジメント計画を策定し、2022年度以降に利用料改定の具体的な議論がスタートする見込みです。

※料金を改定した場合の収支見込みは下表の通りです。値上げをしても需要減による減収によって2028年度(令和10年度)には赤字になってしまいます

 

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