海岸保全計画改定の問題

防潮堤の整備方針などをまとめた宮城県の「三陸南沿岸海岸保全基本計画」が改定されました。計画改定に合わせて、パブリックコメント(意見公募)に寄せられた103件の意見・質問への回答も公表しましたが、結局は何も変わりませんでした。詳しくは宮城県ホームページをご覧ください。

この計画は、地域説明会、意見公募、専門家をまじえた懇談会を経て改定しました。震災後、新たな考えのもとで整備する防潮堤は、本来なら海岸保全基本計画を改定しなければ造れないのですが、後付けの改定になってしまいました。

■改定前に防潮堤工事に着手

計画が改定する前に防潮堤工事が始まっていることは、意見公募でも指摘されましたが、県は「被災地の一日でも早い復旧・復興のため、地元の合意が得られた箇所から工事に着手し、同時並行での計画変更手続きとなっています」と回答しています。防潮堤を一度造ってしまえば撤去は困難です。計画改定による議論をしないまま、工事を先行させたことを私は大きな問題だと思っています。

三陸南沿岸海岸保全基本計画2015.8_page012■自然海岸比率は65%

計画の対象となる三陸南沿岸(宮城県分)は、気仙沼市から石巻市まで延長427㎞の海岸です。そのすべてがコンクリートで覆われるイメージをお持ちの方もいますが、海岸の64.64%は自然海岸のままです。

今回の改定により、頻度が比較的高いレベル1津波に対する「粘り強い防潮堤」整備の考え方が追加されています。中央防災会議専門委や国の方針がもとになっているので、宮城県オリジナルの考えはほとんどありません。

 

■「保全すべき重要施設」と「集落の孤立」

海岸保全施設の整備は、「耐震化、防護効果や経済性に十分配慮して対策工法を検討する」と記載してあります。費用対効果などについて意見公募で質問してみると、「背後に保全すべき重要な施設等がない場合などは、既存施設の堤防高としている海岸もあります」との回答でしたが、個別の海岸を示した質問には「津波襲来時に集落が孤立するのを防ぐために必要」と整合性に欠ける内容もありました。これでは「防潮堤ありき」と批判されても仕方ありません。

■注目した記載事項

計画には防潮堤に関する以下の記載もありましたが、こうしたことは各海岸の計画が固まる前に示してもらわないと意味がありません。

・施設計画において、フォトモンタージュや模型等の客観的・科学的な手法等により環境面・景観面に配慮する。

・色彩や構造、材料に配慮し、生き物にもやさしく、人が利用しやすい、周辺環境と調和の取れた施設の導入の検討に努める。

・海岸堤防の背後に保全すべき重要な施設がなく、もっぱら国土保全を目的とする海岸堤防は、震災前の堤防高で復旧する。

・背後の土地利用等を勘案し、必要に応じて緑化に配慮する。

・海岸保全施設の整備対象海岸の選定については、各海岸管理者が区分する地区海岸ごとに防護、環境、利用の観点からの必要性を検討し、整備が要請される海岸とする。

三陸南沿岸海岸保全基本計画2015.8_page052

■立地や特性を整理

施設整備は、①立地条件②背後地等の状況③利用に係る状況・・などから海岸の特性を把握した上で、特に必要な観点、実施する施策、整備目標、配慮事項を整理することになっています。当然、防潮堤で守られる範囲も整理されます。この整理がされる前に、影響力に大きい防潮堤工事が始まっています。

左の表がその考え方、下の表は公開された整理表の一部です。防災林と防潮堤がセットとなった治山施設、河川堤防は海岸保全施設ではないために一覧には入っていません。

三陸南沿岸海岸保全基本計画2015.8_page065

意見公募については、以前も紹介しましたが、私も21項目の質問を提出しました。総体的なこと、具体的なことを指摘したつもりでしたが、津波の発生確率や個別の防潮堤の必要性について、満足のいく回答はありませんでした。質問の内容が分かりにくかったのなら、連絡くらいほしかったです。今後の政治活動の中で、残された疑問を解消していきたいと思います。

■最悪の津波想定公表は「もう少し時間が必要」

今後の課題は、津波防災地域づくりに関する法律に基づき、最悪の津波想定が公表されることです。防潮堤の効果にも及ぶ内容ですので、早期公表を求めたのですが、県は「防災移転促進区域の跡地利用計画が確定しておらず、建築物も含めた地物データが十分に把握できていないことから、浸水想定にはもう少し時間が必要と考えています」と回答しております。

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