海岸保全基本計画案に21の疑問

「想定外」の東日本大震災に遭遇し、地元紙の新聞記者として、その後は市議会議員としてひたすら被災地を見続けてきました。

その4年間で最も疑問を残しているのが防潮堤計画です。 宮城県がようやく公開した三陸南沿岸の海岸保全基本計画案のパブリックコメントに、その思いをぶつけました。

論点を要約すると、100年に1回と分類したレベル1津波と、600年に1回と分類したレベル2津波への対策が、行政が整理できてると思っていても、矛盾だらけということを主に指摘しています。

パブリックコメントは27日までです。計画が決まって工事も進む中、混乱することもあるかもしれませんが、私たちは未来への説明責任をしっかり果たさなければなりません。疑問点は、遠慮なく意見を述べるべきです。計画案の内容と意見書提出はこちらへ。→http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kasen/kaigan-keikaku-pubcom.html

以下は、私が宮城県に提出した意見です。21の意見のうち、個別情報に関する項目を除いた19項目を公開します。

●「海岸保全基本計画の変更骨子」への意見

・基本計画が変更される前に、多くの地区で災害復旧の域を超えるレベル1堤防が着工している。計画変更はなぜ遅れたのか、変更前に着工することは問題ないのか、それぞれ県の見解を示してほしい。

・堤防高を決める「せり上がり」について、現在の津波シミュレーションでどの程度の精度で対応できるか疑問である。せり上がりの計算方法と精度、各ユニットのシミュレーション結果を積極的に公表してほしい。

・各海岸の堤防の高さや位置、構造を決めるに当たり、レベル1津波のシミュレーションによって浸水するエリアを地域に示し、どのようなものを守りたいか、どのような地域にしていきたいか一緒に議論することが大切である。各海岸の想定浸水域・浸水深を公表してほしい。

・明治三陸津波のように103年に1回の平均間隔で発生する津波が、平均朔望満潮位で発生することを前提に、せり上がり分を完全に防ぐようにした上で、さらに1mの余裕高を設定することは過剰な対策と考える。余裕高についは各海岸で地域と協議して選択できるようにしてほしい。

・近年発生せずに想定のままの想定宮城沖地震(連動型)は「比較的発生頻度の高い津波」から外すという選択肢を地元に与えてほしい。

・想定宮城県沖地震(連動型)について、政府の地震調査研究推進本部はどのような長期評価をしているのか、県民にしっかり説明する義務がある。宮城県沖と三陸沖南部海溝寄りの連動について、平均発生間隔は何年と想定してレベル1津波に組み入れたのか伺う。

・堤防の「粘り強い構造」は、海の埋め立てなど自然破壊につながる。比較的頻度が高い津波を防ぐ施設であるなら、堤防の耐用年数をはるかに超える発生頻度の低い津波に備えた過剰な構造は回避するか、回避できることを地元が選択できるようにしてほしい。

・土木学会論文集で発表された「越流を伴う巨大津波に対する海岸堤防の減災機能の検証」 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/kaigan/69/1/69_23/_pdf)で、堤防を整備することによって東日本大震災級の津波の浸水域が拡大する危険性が指摘されている。この研究結果に対する宮城県の見解、指摘されているリスクに対する責任を明確にしてほしい。

・堤防高を設定した「唐桑半島西部」で、鮪立漁港は高さの変更が認められた。計画変更で示されている計画堤防高一覧では、そのことを明示していない。計画変更でしっかり位置付けてほしい。

・堤防高設定について、唐桑半島東部の一部で比較的発生頻度の高いとされる明治三陸津波が、頻度の低い「レベル2津波」に分類された。このことが堤防計画を決める地元説明会で十分に説明していないのはなぜだったのか理由を示してほしい。

・設計津波の水位を前提に、「海岸の利用や環境、景観、経済性、維持管理の容易性などを総合的に考慮して堤防高を設定する」としているが、それぞれの海岸でどのようなデータをもとに判断したのか、堤防へ公費を支出する前に、その資料を公表してほしい。

・特殊な事情がある地区の個別の堤防高設定について、「堤防の高さを震災前の堤防(計画)高」とする区域とあるが、これは16年3月に策定した現計画で計画していたものの、震災時点で整備されていなかった堤防高(実際は無堤だったが、計画では3.12mの堤防を整備することにしていた場合など)を認めるのか県の考えを示してほしい。

・粘り強い海岸堤防のイメージとして、岩礁海岸に採用する直立堤の海側にコンクリートの「根固めブロック」が描かれていない。地元で開かれてきた説明会の内容と異なるが、これは別途対策をとる「地盤対策」になるのか伺う。また、根固めブロックを使用しないという選択肢があるのかも伺う。

・現計画の基本方針では「地域に広がる豊かで美しい自然環境の保護・保全に努める」としているが、今回の変更でこの部分は削除されるのか伺う。また、全国第一位だった自然海岸比率が、計画変更によってどのような比率になるのか示してほしい。

・「地域に残る良好な環境の保護・保全に配慮した防護・保全施設の工法、構造、材料、配置等についての検討を進める」とある。このうち「材料」について、どのような工夫が具体的に行われているのか示してほしい。

・海岸環境の整備及び保全の基本方針の中で、「環境や景観への配慮については関係各市町のまちづくり復興の進捗を踏まえて、可能な限り対応していく」とあるが、これを「積極的に対応していく」と表現を変えてほしい。

・津波防災地域づくりに関する法律で、県知事には最悪の条件による津波浸水想定の公表が義務付けられた。この浸水想定は、越水によって堤防機能がゼロになることも条件となっている。堤防計画は背後のまちづくりと密接にかかわるのだが、この浸水想定が公表されないまま、レベル1津波対応の堤防計画が説明されているのは問題である。堤防工事が始まった後に、この浸水想定を住民が知ることになっては、正しい判断ができたとはいえない。海岸保全基本計画変更の前に、宮城県は浸水想定を公表するべきと考えるが、県の考えを伺う。

●「施設整備計画(案)」への意見

・気仙沼市唐桑町の小鯖漁港は、防潮堤を大幅にセットバックしたことにより、比較的頻度の高い津波から守れる地域の範囲が少なくなった。特に南側の防潮堤は、背後地に守るべきものが見受けられない。こうした疑問があることから、費用対効果、宮城県として考える「守るべきもの」を明示してほしい。

・気仙沼市の片浜海岸、千岩田海岸、台ノ沢海岸、最知海岸は、堤防を前出して整備する。工事のための仮設堤防、工事用道路が必要になり、その分も海を埋め立てることになる。よって、それぞれの施設整備を行う上での配慮事項に「藻場の保全に努める」「工事後は仮設堤防と工事用道路を完全に撤去するか、藻場の形成につながる工夫を地元漁協と協議して実施する」と記述してほしい。このことは、堤防を海側に前出しする全海岸の配慮事項に記述してほしい。

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