気仙沼市の小・中学校の再編が進んでいます。
4月12日夜に開かれた条南中学校区の地域懇談会では、気仙沼中学校と令和6年4月に統合するため、次の段階に進むことが決まりました。
義務教育環境整備計画(再編計画)に基づき、平成25年から9組の統合が進み、令和6年には小泉小と津谷小、中井小と唐桑小の統合がすでに決まっており、条南中と気仙沼中が正式決定すれば12組目(計画外で被災した南気仙沼小は気仙沼小へ統合)になります。
※再編計画に基づく統合状況は下表の通りです
なお、再編計画策定の経緯等は今川悟ホームページの気仙沼復興レポート㉙「小中学校再編の行方」にまとめてありますので、経緯を知りたい方はご確認ください。
【条南中は議論開始から結論まで4年半】
条南中の統合は、再編計画の第三段階(平成30~33年度)に位置付けられていました。具体的に動き出したのは令和元年からです。まずは保護者の理解が欠かせないので、保護者向けの説明会からスタートしましたが、少子化を受けて統合には理解を示すものの、気仙沼中までの通学距、登下校の安全対策などを心配する声が出ました。
生徒数はまだ1学年2クラスを維持できる規模で、わずかながら条南中の方が多く推移するため、「時期尚早」「条南中へ統合すればいい」という意見も根強くありました。
賛成、反対、時期尚早と意見が分かれたまま、議論は平行線をたどり、説明会からには2年8カ月もかかりました。そして、令和4年7月から地域住民らも対象にした「地域懇談会」に移行し、議論が本格化しました。
※下表は保護者を対象にした説明会の開催状況です
【どうして統合が必要なのか】
令和4年度の生徒数は条南中が6学級152人、気仙沼中は4学級124人。条南中は全学年2クラスで、気仙沼中は2年生が2クラス、1年生と3年生が2クラスでした。これまで統合した学校のほとんどは1学年1桁台だったので、ついに一定規模を確保している学校の統合でも、より生徒数を確保するための統合に手を付ける段階に入ったのです。
学校教育法施行規則では、小・中学校とも「12学級以上18学級以下」を標準としており、教育委員会は条南中と気仙沼中の統合が必要な理由を次のように説明しています。
①多様な考えに触れ、切磋琢磨するためには一定の集団規模が必要である(「教え」から「学び」へ教育方針が転換する中で特に重要なポイントだそうです)
②経験年数や専門性のバランスが取れた教職員集団を確保するためには一定の学校規模を確保しなければならない(条南中でも技術と家庭は免許を持たない教員が特別な講習を受けて授業を行っているほか、音楽と美術は両方の免許を持つ教員が1人で担当しています)
③交友関係を広めたり、交友関係をリセットするためにはクラス替えできる規模が望ましい(いじめや不登校の対策としても効果的です)
④部活動の選択の幅が広がり、単独チームでの大会出場が可能になる(条南にある部活は野球、サッカー、テニス男女、バスケ女、バーレー女、卓球男女、吹奏楽、文芸科学です)
※条南中と気仙沼中の生徒数と今後の見通しは下表の通りです。南郷・本郷地区は小学区は気仙沼小ですが、中学区は条南中のため、指定校変更が多く、令和11年度以降の見通しは幅を持たせてあります(市教委作成資料)
※市教委が調べた県内13市の中学校の平均学級数。気仙沼が最も少ない結果となりました
【気仙沼中学校へ統合する理由】
生徒数が多い条南中学校ではなく、気仙沼中学校へ統合する理由は大きく四つあります。
①条南中は今回の津波ハザード(東日本大震災を上回る最悪想定)に入ったことにより、将来の建て替えの適地ではなく、次の統合において統合先となる可能性は基本的にない(危険性があるので集約先にはならないということ)
②気仙沼中の位置は、気仙沼中学区と条南中学区を合わせた地域の中でほぼ中央部に近い
③将来的な生徒数の見通し、学区内における学校の位置や状況、将来的な市内全域の中学校の位置等、総合的に検討した結果
④現気仙沼中の周辺の施設(市立図書館や市民会館)を教育活動に利用できることも利点
これは地域懇談会でも争点となったテーマでした。特に九条地区からは気仙沼中まで4km近くある世帯もあり、統合するにしても条南中を残すべきだという意見がありました。
【循環バスをスクールバス代わりに】
市教委は当初、スクールバスは6キロ以上でなければ運行していないため、自転車で登校する案を示しましたが、市街地を走る循環バスを登下校に利用する改善策を提示しました。
登校時間の循環バスのルートを変更することで、気仙沼高校第2グラウンドから内の脇まで16分で移動でき、そこから10分歩いて気仙沼中へ通う案です。料金は大人200円ですが、距離要件を付けて無料とすることを検討しています。
【気仙沼中体育館の新築検討を約束】
安心して統合するため、市は老朽化した気仙沼中体育館の新築を検討することを約束しました。
もともとマンモス校だった気仙沼中は、昭和60年建築の東校舎だけで統合後に必要な教室数を確保できます。ちなみに条南中の校舎は昭和52年建築です。
しかし、体育館は昭和33年建築と市内の学校施設では最も古く、「統合するなら建て替えてほしい」との要望が出ていました。
当初は、丈夫なRC構造で耐震基準を満たしていることから、「大規模改修」を含めて検討する方針でしたが、最終的には「新築」を約束した形になりました。現在利用していない西校舎は体育館の新築等の計画に合わせて解体することを想定しているそうです。
※統合へ進むことを確認した地域懇談会。車座方式で意見を交わしました
【保護者アンケートは7割が反対意見】
条南中に在籍する生徒152人の保護者の考え方を把握するため、条南地区振興協議会がWebアンケートを令和4年7月に実施しました。
回答した103人のうち、統合に「賛成」は8.7%、「どちらかというと賛成」は19.4%だったのに対し、「反対」は38.8%、「とぢらかといえば反対」は33%でした。
反対の理由は「統合のメリットより地域へのデメリットの方が大きい」「循環バスではなくスクールバスを出すべき」「いま無理に統合しなくてもいい」「市役所が移転してから再検討すればいい」「人数の多い方がなくなるのはおかしい」などでした。
令和4年10月13日の地域懇談会でこの結果が報告され、「もう一度立ち止まって話し合いできないか」とPTA会長から提案がありました。しかし、小山教育長は「統合は多数決で決められない」とし、九条小のPTA会長は「アンケートのやり方もある。結果が先走るのは心配。何に反対なのか、懇談会に出てきて意見をぶつけるべき」と反応しました。
【最後は「おおむね理解された」と市教委が判断】
条南中学区の地域懇談会は、議論が平行線のまま、令和6年4月とした統合の目標時期まで1年を切ったため、先送りになる可能性が出てきましたが、令和5年4月12日は雰囲気が異なりました。※懇談会資料はこちら⇒条南中統合懇談会資料2023.4 地域懇談会Q&A前半 地域懇談会Q&A後半
母親や自治会長から「部活は合同チームで廃部の不安がある。やりたいことをできる環境にしたい」「スピード感を持って統合を進めてほしい」「統合が延びると不安になる」と令和6年4月の統合を支持する意見が目立ちました。
「旧市立病院跡地に新しい学校を建てるべき」とか、「子どもたちのためというなら子どもたちの意見を聞いてほしい」という慎重論もありましたが、子どものために早期統合を求める母親たちの勇気ある発言が上回り、統合やむなしという会場の雰囲気となりました。
最後に、前商店会長が「意見が出そろい、統合するしかないと思った。争う中からはうまいことが出てこない。跡地利用を真剣に考えてほしい」と締めくくると、菅原市長が「統合が決まれば優先課題の一つとして取り組みたい」と約束しました。
そして、小山教育長が「令和6年4月の統合について、本日の話し合いを受けて、おおむね皆様の理解を形づくることができたと判断し、本日から次の段階に進みたい」と宣言。気仙沼中学校区の地域懇談会を開催して理解が得られれば、市議会に関係議案を提案することとしました。
※統合の進め方は下図の通りです(配布資料より)
【さらに進む中学校再編。大括り化へ】
条南中と気仙沼中の統合に目途が付き、現在の再編計画で残されている3組(月立小と新城小、大島小と鹿折小、大谷中と階上中)は先送りすることが明言されていることから、いよいよ新たな再編計画づくりに着手することになります。
少子化が止まらない中、新計画では市全体で中学校の再編が加速することになりそうです。
条南中の地域懇談会で、次の段階について問われた菅原市長は「年間出生数が市全体で200人台であることを前提で考えると、そんなに多くの中学校は残らない」と答えました。
新計画づくりは検討委員会を立ち上げて検討する方針ですが、条南中の統合校について、市教委は「新計画の先駆けと位置づける」としています。適正規模に近い拠点校として、今後の統合によって大きく生徒数が増える学校づくりのパイロット機能を担うことも期待していることから、その成果について注目されます。
市教委は市全体で大括り化する考えを明らかにしており、1学年2クラスの維持を前提にすると、現在10校ある中学校を半分近くまで減らさなければなりません。学校再編が少子化を悪化させないように、統合後の学校の魅力を高めるための工夫が必要になります。
※各中学校の生徒数の見通しです
※少子化はものすごい勢いで進んでいます
※条南中学校区地域懇談会で配布された小中一貫校に対する資料です