気仙沼の平均賃金は仙台より11万円低いけれど【労働実態調査】

「気仙沼の民間給与が仙台よりも安い」という問題について、宮城県が毎年実施している労働実態調査をもとに分析してみました。

結論からいうと、仙台に比べると気仙沼の平均賃金は3割ほど低く、業種別では製造業では4割も安い結果でした。女性の賃金の安さも浮き彫りとなっています。

【県内最低レベル。44歳でも23万円】

この調査は従業員10人以上の事業所を対象に、県内の2000事業所を抽出して実施しています。2020年度調査の有効回答は29.6%でした。気仙沼地方振興事務所管内(気仙沼市と南三陸町)では319人分の回答ですが、毎年の結果が仙台圏との格差を表面化させています。

気仙沼地方の平均賃金は諸手当を含めて23万6085円(平均年齢43.9歳)でした。仙台地方振興事務所管内は34万7723円(42.1歳)ですので約11万円もの差がつけられました。各エリアと比較しても気仙沼が最も低くなっています。

【女性の基本給は平均16万円】

平均基本給では気仙沼地方が18万7555円、仙台は26万2444円でしたので、基本給ですでに格差があります。

気仙沼地方の平均基本給を男女別にみると、男性は20万6082円(43.4歳)なのに対して女性は16万620円(44.9歳)でした。女性が多い製造業で基本給が抑えらていて、これは高収益が得られにくい水産加工が多い気仙沼地方の事情が反映されていると思われます。医療・福祉でも仙台との差が出ています。

エリア別、業種別、男女別の状況を詳しく知りたい方は、県雇用対策課のホームページで確認ください。地区別の状況は最後に掲載しています。

【10年前よりも1万円ダウン】

母数が少ないので実態を反映させているかどうかは微妙ですが、10年前の2010年と比較すると、気仙沼の平均賃金は1万1542円下がりました。平均勤続年数が3年ほど短くなっているので、震災による影響が考えられますが、期待していた復興特需による賃金アップは見られませんでした。仙台はほぼ横ばいでした。

気仙沼の状況を10年前と比較すると、建設業の賃金がアップした一方で、卸売・小売業が3万円ほどダウンし、医療・福祉も下がりました。サービス業は15万円から24万円に向上していますが、これも母数が少ないので明確な分析はできませんでした。

【課題は賃上げか】

地区別の賃金については、宮城労働局もハローワーク別の求人平均賃金として毎月公表しています。

最新の2021年8月分をみると、県内平均の22万6975円に対してハローワーク気仙沼管内は20万3194円でした。採用段階では大きな差がなくても、賃上げ、昇給、ベースアップで差が出てくるのだと思います。

宮城県と宮城労働局のデータから見えてくるのは、労働組合の有無による影響です。

気仙沼では回答の対象となった従業員のうち、労働組合がある事業所に所属している人は16%でしたが、仙台だと46%にもなります。県内では東部(石巻)の14%に次いで2番目の低さでした。労使交渉がなければ、賃上げもうまくいかないということが一因として挙げられます。

【市民総所得は中級レベルなのに】

経済関係のさまざまなデータを分析すると、気仙沼の課題が見えてきます。

宮城県が毎年公表している市町村民経済計算によると、市町村民の所得を総人口で除した「1人当たり市町村民所得」は、14市の中で気仙沼は6位(最新データは2018年度)でした。

このデータには企業の利潤も含まれていますが、全体の所得は悪くないことが救いです。

【人手不足も深刻に】

事業所の人手不足が続いているのに、平均賃金が最低レベルのままだと、問題はより深刻になります。

国勢調査の結果から分かるように、気仙沼市へ他市町から働きに来る人も、気仙沼市から他市町へ働きに出る人も少なく、気仙沼の就労環境は地理的環境から閉鎖的です。賃金を上げても地域内での競争が激化するだけで、就労者そのものを増やすことは厳しい環境にあります。

※ハローワーク気仙沼管内の求人倍率は震災後に高止まりしている(下表参照)

そもそも気仙沼は小規模事業所が多く、水産業を基幹とした産業構造によって高賃金を出しにくいという経済環境が低賃金の最大の要因と考えられます。その一方で大学進学率は上昇を続けており、気仙沼に帰って就業する条件は厳しくなるばかりです。

しかし、賃金は安くても自然や人に恵まれた環境、やりがいのある仕事を求めて移住してくれる若者もおり、気仙沼の魅力を再発見する取り組みが期待されています。震災後に始まった経営塾、インターン制度、移住定住支援などは成果が出ており、寮を用意することで市外からの若者を採用している水産加工会社もあります。

実家暮らしができる気仙沼では、賃金だけでなく、世帯収入、可処分所得(自由にできる所得)という考え方も必要です。

なお、賃金を取り巻く問題は、2015年1月の気仙沼復興レポート11「被災地の人手不足」、2017年4月のブログ「製造業の人手不足はいつまで続く?」でも紹介しています。


2021年度の労働実態調査結果(気仙沼地方振興事務所管内と仙台地方振興事務所管内)

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