会計年度任用職員制度で何が変わるの?【気仙沼市】

気仙沼市は国の法改正に合わせて、2020年度から「会計年度任用職員制度」を導入します。さらに公共施設の指定管理者制度の運用のルールを定めた「指定管理者制度運営指針」も新たに策定しており、この二つの制度によって、臨時職員や嘱職員、そして嘱託員に準じていた指定管理者の職員の待遇が大きく変わります。

【臨時、嘱託員が非常勤一般職へ。国の法改正によって来春導入】

最初に会計年度任用職員制度について説明します。

地方自治体は行財政改革によって正規職員の削減を進める一方で、その穴を埋めるために非正規の臨時職員や嘱託員を雇用してきました。職員1人の平均的な人件費800万円に対して臨時・嘱託員なら200万円程度で済むからです。正規職員の代わりに臨時や嘱託2人を配置しても人件費は半分で済みます。しかし、その待遇は正規職員に比べると不公平で、守秘義務などの制約を課せられないという問題もありました。

そもそも臨時職員は正規職員の急な欠員に対応するため、嘱託員も医師や統計調査員など非常勤の特別職のため、本来なら一般職員で対応しなければならない業務への活用、事務の補助員として多用することは本来の趣旨から外れた運用をしていると国が指摘したのです。2017年に公布された改正地方公務員法により、来年度から臨時職員と嘱託員の任用要件が厳格化されることになりました。

そこで創設されたのが「会計年度任用職員制度」です。任期が会計年度内(最長1年)の非常勤一般職員で、フルタイムでもパートタイムでも活用できます。嘱託員や臨時職員に代わる仕組みですが、書類や面接による選考で済んでいた採用に、競争試験が加わることになりました。正規職員と同じように服務宣誓、守秘義務、兼業禁止(パートタイムは可)などが適用されます。

【最長1年の雇用でもボーナス2.6カ月分支給】

服務規定が厳しくなる分、忌引き休暇、産前・産後休暇も利用でき、同一労働同一賃金のガイドラインに従って給与月額も正規職員同様になり、ボーナスも支給します。ただし、雇用は1年以内で、続ける場合は試験(選考も可)を受けて改めて任用されます。

事務職の場合、気仙沼市ではフルタイムの会計年度任用職員は行政職の1級1号棒である月14万4100円で採用し、2.6カ月分の期末手当37万4660円の支給を考えています。現行の臨時職員はフルタイム(22日分)で14万3000円、嘱託員(週29時間以内)で13万1000円を支給していますが、期末手当はありませんでした。臨時職員の年間賃金は171万6000円ですが、会計年度任用職員だと210万3860円になります。

1年雇用なので基本的に昇給はありませんが、再度任用する場合は経験を踏まえた給料の格付けとすることができます。国の事務処理マニュアルによると、1年で4号俸加算できるため、例えば行政職給料表の1級だと1号俸は14万4100円ですが、5号俸は14万8600円になります。しかし、何度任用されても新人という扱いのため、上限は大卒初任給の25号俸(18万700円)が想定されます。

なお、給料については資格や大卒などの学歴によって加算することができ、事務処理マニュアルでは加算数×4号級で17号級(16万4200円)で採用することもできます。

【気仙沼市は臨時・嘱託で551人。採用競争試験を実施】

気仙沼市では正規職員1252人に対し、臨時職員227人、嘱託員324人を任用しています。特に嘱託員は、18年前の旧気仙沼市時代に100人を超え、将来的に統廃合や民営化を考えている保育所や図書館、公民館などをはじめ、今では各課の事務補助員としても重宝されています。気仙沼図書館は職員22人のうち17人が嘱託員です。

臨時職員、嘱託員の多くが会計年度任用職員に移行すると見られますが、これから各課の状況を確認して採用人数を決めていきます。もし、全員フルタイムの会計年度任用職員に移行すると仮定すると、ボーナスだけで約2億円になります。地方交付税措置以外に国からの支援はないため、人件費の総額を大きく増やすことは難しく、人員や勤務時間を抑制しながらも、膨大な復興事業に耐えられる態勢づくりが求められます。

市議会9月定例会への条例提案が予定されており、その際には採用人数や人件費の増減も分かります。10月からは公募や採用試験が始まりますが、数百人規模での試験となりそうです。待遇アップにより、民間からの転職も想定されます。

※下記の資料は7月の議員全体説明会で配布されたものです

【地域おこし協力隊、ALTも一般職に】

国の事務処理マニュアルによると、特別職から一般職へ移行する職として、事務補助職員や保育士、図書館職員、公民館長と公民館職員のほか、地域おこし協力隊、集落支援員(地域活性化支援員)、国際交流員、給食調理員、外国語指導助手(ALT)などが例示されています。

会計年度任用職員は、「会計年度ごとにその職の必要性が吟味される『新たに設置された職』と位置付けられるべきもの」との国の指導があります。さらに、その給料については「定型的・補助的な業務等に事務補助職員については、一般行政職の常勤職員の初任給基準額を上限の目安にすることが考えられる」ともされており、会計年度任用職員は常に新人職員としての扱いになるのです。

例えば気仙沼図書館のように22人のうち嘱託員17人という施設がそのまま会計年度任用職員制度に移行すると、約8割が新人という組織になってしまいます。単純に新制度へ移行するのではなく、常勤職員が担うべき仕事、民間に委託する仕事を整理し、どの職種に新制度を適用させるかは吟味しなければなりません。


【指定管理施設でも待遇改善。昇給と賞与も】

新たに策定された指定管理者制度運営方針も注目しなければなりません。こちらでも、指定管理者の職員待遇が変わっていくからです。

指定管理者制度は、公共施設の管理を民間に任せることによるコスト削減と活性化を目指して始まりましたが、実際にはコスト削減の目的が強くなっています。指定管理料の人件費は市の嘱託職員を基本としているためです。

気仙沼市の場合、74施設で制度を導入していますが、市町合併などにより指定管理の考え方が統一されていなかったので、指定管理料の算出も含めて新たなルールをつくりました。

詳しくは市のホームぺージで公開されている運営指針施設一覧を見てください。今回注目してほしいのは指定管理料に含まれる人件費の積算基準ですが、指定管理団体の正職員の場合、昇給も賞与も認める方針が示されました。

嘱託職員を基準としていたときは月13万円ほどでしたが、正職員並みとすることで月17万~30万円ほどの月給が指定管理料の中で賄えることになりました。さらに年間2カ月分の賞与も加わりました。別な制度で成り立っている福祉施設や地区の集会施設は異なりますが、施設長は最高31万5000円の給料とすることもできます。

【公民館、体育館、産業振興施設など対象】

公民館、福祉センター、体育館、産業振興施設などで、この基準による施設長、正職員、そして嘱託員と臨時職員の配置を考えています。基本5年の指定管理の契約更新に合わせて新ルールを適用させていきますが、公平性確保のため更新前の適用についても調整しなければなりません。

この指針を策定したのは2018年12月で、その後に契約した指定管理者にはすでに適用しています。例えば内湾地区にできた気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザは気仙沼地域開発を指定管理者に指定していますが、本年度の指定管理料は2200万円になります。そのうち給料は660万円。正職員1人と嘱託職員2人分です。給料のほかに職員手当等21万円、共済費99万円も計上してます。

なお、運営指針策定の際の説明では、全施設の指定管理料の合計は1億8800万円でしたが、新ルールで試算したところ、増額は600万円におさまったそうです。正職員の待遇が改善されるかわりに、職員数が削減されるのではないか心配です。職員待遇がよくなっても、市民へのサービスが悪くなっては大変なことです。

※下表は運営指針にある人件費の積算基準です

【会計年度任用職員制度は指定管理にも影響】

指定管理料にかかる人件費は、市が直営とした場合の人員配置を基本としますので、会計年度任用職員制度の影響を受けます。市が嘱託員の代わりに会計年度任用職員を配置するのであれば、指定管理施設の嘱託員も同様の扱いにしなければなりません。

新たな運営指針によって指定管理者の職員も市の職員に準じた待遇となりましたが、会計年度任用職員制度の導入によって指針を見直し、嘱託員や臨時職員についても待遇が改善されることになります。市の制度導入準備が遅れていることで、心配なのは指定管理者施設間の公平性です。来年度当初まで残り期間が少ないため、準備が間に合ったところは新年度から待遇が改善され、間に合わなかったところはそのままということが起こりかねないのです。

気仙沼市内の企業でボーナスがどのくらい出ているのかというデータはありませんが、私の感覚だと指定管理者の職員は気仙沼では好待遇になると思います。行政ばかりが働き方改革で優遇されることも不公平ですので、民間の待遇改善にも本気にならなければなりません。

【政策、定員管理との整合性は】

私は三陸新報の記者時代、市の嘱託員、臨時職員に応募が殺到しているという記事を書きました。掲載されたのは震災5日前の2011年3月6日。ハロワークは仕事を探す人でいっぱいで、公民館の嘱託員は5人の募集に14人、図書館も4人に対して24人が応募しました。

当時から正規職員との格差は問題視されていましたが、それでも応募が殺到するという気仙沼経済の実態を痛感しました。あれから8年、復興特需と労働者人口減少が重なり、求人倍率は高止まりしていますが、気仙沼がどのように変わったのか、応募状況から分析してみたいと思います。

政策との整合性もチェックしなければなりません。会計年度任用職員制度の導入は法改正に基づくため、国から事務処理のマニュアルが示されています。そこで求めているのは、臨時・非常勤職員の任用根拠の明確化です。なぜ、常勤の一般職員で対応しないのか、その理由を明確にしなさいということです。

3~5年の複数年を任期とする任期付職員制度との使い分けも求められています。図書館は指定管理を検討するために嘱託職員を増やしてきましたが、新築の議論の中で直営で進めることが決まっており、各部署や施設にどのような職員配置が必要なのかという方針が示されなければなりません。

市は復興後の職員定数の在り方を示すため、2020年度までに定員適正化計画を策定することとしており、まずは新制度に移行したうえで、議論を深めていきます。

 

 

 

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