震災遺構保存の覚悟は?【気仙沼市】

気仙沼市東日本大震災遺構検討会議(川島秀一代表)は2月26日、気仙沼向洋高校の被災校舎を「震災遺構として保存し活用すべき」との結論を出しました。この意見を受け、新年度早々に保存するかしないかを市が決めることになりますが、今後の経費負担などを考慮した難しい判断が迫られます。

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【内部の公開を前提に】

26年10月に設置された検討会議は、被災校舎がある階上地区の代表、観光、美術館、防災、マスコミの関係者など12人で構成。保存を前提に、保存範囲、公開活用の方法などを話し合ってきました。神戸や雲仙の震災遺構も視察してきました。

最後となった第6回会議では、保存の意義として①震災の記憶や教訓を伝承する場②防災・減災教育の拠点③気仙沼の歴史や地域性を伝える場-を報告書に盛り込むことを確認。視覚に直接訴える重要なシンボルとして、内部の公開を前提として保存すること、最大の範囲をありのままの姿で保存することも提案しました。ただし、「負の遺産にならないように総合的視点から方針を決定する」という文言も加えました。

※下の写真は職員が撮影した津波襲来時の様子(宮城県ホームページから)

気仙沼向洋高の震災対応_page005

【維持費は年間7500万円】

地区からも保存の要望が出ていて、遺構の意義も問題ないのですが、心配されるのは保存の経費です。最後の会議になってようやく示されたのは、3階に車が残されている南校舎を内部公開するようにエレベータを整備して保存し、北校舎と総合実習棟は現状のまま保存して内部公開せず、新たな施設も整備する場合、総事業費が7億3300万円、年間維持費が7500万円になるという試算でした。

総事業費のうち3億9500万円は新施設の整備費用で、全壊した岩井崎プロムナードセンターの災害復旧費用を充てる考えです。校舎の保存費用は復興交付金を活用しますが、現段階では、国がどこまで面倒を見てくれるかは分かっていません。初期費用に関しては、国との協議しだいということになります。

年間維持費7500万円の内訳は、施設の維持に1500万円、運営費に6000万円を見込みました。運営費は職員やパートなど15人ほどの人件費が約8割を占めます。校舎の内部を有料で公開するための受付と案内などに人員が必要なためです。

一方、入館料を大人500円、子供200円とし、年間10万人訪れた場合の収入は3800万円と試算しましたが、委員からは「入館料を払って10万人も来るというのは現実的ではない」という指摘がありました。たとえ10万人訪れたとしても毎年3700万円の赤字が出てしまうのです。

4-shiryou2_page003【保存だけの選択肢も】

校舎を所有する宮城県教委は、すでに解体の準備に入っており、保存する場合は「27年度早々に決めてほしい」と気仙沼市に伝えています。保存を求めた段階で、責任は気仙沼市に移ることになります。直営にするのか、指定管理者にするのか、運営方法も明確でなく、年間維持費も概算だけという中で、難しい判断をしなければなりませんが、ここまで来て「お金がかかるから解体する」という結論を出すのも難しいかもしれません。

選択肢の中には、費用のかからない保存もあります。検討会議でも検討した「内部公開をしない保存」です。外周をフェンスで囲って立ち入りできないようにし、外観から震災の教訓を伝える方法で、初期費用も維持費もほとんどかかりません。費用の負担を考えると、この方法を選択する可能性があります。

【問われる覚悟】

いずれにしても、震災遺構の保存には気仙沼市としての覚悟が必要です。防災に力を入れていくのだから経費がかかっても保存活用していくのか。保存するのなら中途半端な覚悟では、多くの市民から理解は得られません。その場合、予算が確保するためには何か別なことを我慢しなければならないでしょう。何かを我慢してでも保存する覚悟、保存した施設を防災に活用していく覚悟が問われています。

震災遺構検討会議の資料震災伝承会議の報告書は気仙沼市ホームページで、気仙沼向洋高校の震災時の対応は県ホームページで公開しています。

 

 

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