気仙沼市は震災当初の対応を記録集「東日本大震災における災害対応の記録と検証」にまとめました。その内容は気仙沼市ホームページで見てほしいのですが、500ページ以上もあるため、概要を説明します。
【初動期の記録をまとめて検証】
この記録集は災害発生から約半年間の対応を記録・検証することを目的に、震災翌年から策定作業に着手しました。他の市町村と同じように当初は1年ぐらいで完成する予定でしたが、より内容の濃い記録集とするため、ヒアリングの対象を300人に拡大するなどして震災から10年後の2021年3月にようやく完成しました。
ヒアリング調査で得られた職員や市民の証言は「気仙沼市 東日本大震災 災害対応記録集」として2019年3月に発行しました。その内容は2020年2月のブログで紹介しています。なお、市は復興の記録集も作成中です。
【仮設住宅や避難所の課題とは】
今回の記録集は、三菱UFJリサーチ&コンサルタントに編集作業を委託してアンケートやヒアリングなどをもとに当時の行動を整理したうえで、うまくいった対応、うまくいかなかった対応の原因をそれぞれ分析しました。そして「改善の方向性」を見い出して、今後の対策として必要なことを提案しています。
例えば、市の災害対策本部の会場として想定してた八日町のワン・テン庁舎は業務用の非常用発電機を備えていなかったことなどから、松岩の防災センターに対策本部を設置したことについては、改善の方向性を「災害本部の設置場所については常に代替施設を想定する」などと記載しました。
地域防災計画の見直しに反映させるため、このほか、情報の収集、医療・救護、仮設住宅の確保、ライフラインの応急復旧、がれき処理など31項目にわたって応急対策について検証しました。
この中でも仮設住宅の確保については、用地の選定から施工の問題点、入居者の調整や支援などに関する具体的な経験が記録されています。遺体の捜索から埋葬までの苦労についても丁寧に記録され、職員のメンタルケアなど多くの教訓を伝えています。
【貴重なデータもたっぷり】
貴重な記録も満載されています。127カ所もあった避難所の一覧、ボランティア活動をした団体や大学の紹介、全国からの応援職員の記録として、2011年度に派遣された職員の配属先一覧、2020年度までの派遣状況も掲載しています。
資料編には、3月16日から約1年にわたって毎日発行して避難所等に張り出した「各避難所・市民の皆様へのお知らせ」の全データもあります。電力や道路の復旧、支援情報などが掲載され、時系列に読むと当時の状況を知ることができる貴重な資料です。
「改善の方向性」の中で、私が注目した内容を下記に抜き出しました。
災害に備えて知っておいてほしい気仙沼市の教訓
【職員のメンタルケア】
・災害対応にあたる市職員の活動環境を整えるため、家族等の安否確認の時間を設けること
【情報収集・広報】
・情報伝達に必要な電源は確実に確保すること
・市民への情報伝達に関しては、伝達する項目(ライフラインや公共交通の復旧予定)や伝達手段(物資と同時に毎日配布する)を事前に定めておくこと
・津波時に避難する可能性のある施設については、SOS情報等を発信する手段を多様に備えること
・主要な災害対応拠点間には災害時にもつながりやすい無線等の情報伝達手段を配備してその利用訓練を行っておくこと
【医療・福祉・衛生】
・災害医療コーディネーターのような医療体制全体を把握し調整できる人材の育成を継続すること
・大規模災害後の害虫(ハエ)の大発生への対応は想定されてなく、防疫体制の重要性を認識して早期対応についてマニュアル化を図ること
【避難所】
・自治会等のコミュニティ組織を活かし、避難者自身による管理運営ができる仕組みを検討すること
・在宅避難者に対する食料配付の指針等を定め、市民に事前周知する。大規模災害時の在宅避難者への市としての対応方針についても事前に検討すること
・避難所間の不公平や運営責任者の不安を払しょくするため、避難所運営者の情報連絡会議を設置することを事前に検討すること
・ペット受け入れのルールを定めておくとともに、避難所開設訓練でもペットの受け入れについて訓練しておくこと
【ボランティア】
・(社会福祉協議会の本所が被災したため災害ボランティアセンターの開設が3月28日になった経験から)、ボランティアセンターの機能や広さの施設をあらかじめ検討しておくこと
・遠野市のような後方支援拠点の活用も視野に、他自治体と連携した支援体制の構築を検討すること
・調整能力のある外部組織による災害ボランティアセンターの運営支援を想定し、ボランティア団体との連携については、外部団体へ委ねることを前提とした計画を策定すること(受援計画の策定)
【その他】
・ガソリン券の発行・配布について大規模災害発生時の対応策に反映させること