前浜の防潮堤に反対した理由【市議会報告】

気仙沼市議会の2月定例会は、前半戦が終わりました。

報告しなければならないのは、前浜漁港(本吉町日門海岸の南側)の防潮堤工事の請負契約締結に関する議案に反対したことです。防潮堤の概要と反対理由について説明します。

前浜は海岸の背後地が高台になっていますが、東日本大震災の津波で大きな被害を受けました。そこで、気仙沼市はレベル1津波(数十年から百数十年の頻度で発生する津波)に対応した海抜9.8mの防潮堤を整備する計画を立てました。

※下の図面は防潮堤の位置図、平面図、断面図です

【賛否両論も地域は計画の受け入れ承認】

当初は岸壁沿いに防潮堤を整備する計画でしたが、住民との話し合いによって位置を陸側にセットバックしたことで、見た目の高さはだいぶ低くなりました。住民の中には反対意見も賛成意見もあり、アンケートによる意向調査などを経て計画を一部修正し、地域としては昨年12月に防潮堤計画を受け入れることを了承しています。

傾斜地のため、民家は防潮堤の天端より高いところにあります。防潮堤でレベル1津波を防ぐ範囲は高台移転の跡地ですが、市は将来的な土地利用とレベル2津波(数百年から千年の頻度で発生する津波)の想定浸水範囲を縮小する効果があることを整備理由としています。

防潮堤の背後の窪地を防潮堤と同じ高さまで埋め立て、広場などして有効利用する計画もありましたが、最終的には実現しませんでした。防潮堤より低い位置に民家がなくても気仙沼市が整備するレベル1防潮堤には、民家を孤立させないため、商店や道路を守るためなど、さまざまな理由がありましたが、前浜は唯一、「地域振興のために地域が必要としている」ことが理由だったので、その動きはずっと注目してきました。

※下の写真は前浜漁港のレベル1防潮堤と、その防潮堤がレベル1津波から守る範囲をまとめたものです。住民説明資料から今川が作成しました

※下図は前浜地域の災害危険区域です。防潮堤を整備しても、背後地はレベル2津波によって高さ10m以上(赤色)の浸水が想定されています

【レベル2津波の縮小効果は整備理由になる?】

私が反対したのは、防潮堤が守る範囲に建物がなく、現地の地形を見ても、防災のために防潮堤がどうしても必要だと思えなかったからです。

たしかに防潮堤を整備することで、東日本大震災で被災した民家2軒が災害危険区域から外れましたが、市は「津波シミュレーションには不確実性があり、誤差もある」と公言しています。セットバックすることで、災害危険区域と比べてさらに3軒の民家が浸水想定域から外れるものの、市は災害危険区域を変更しないことを決定しています。

つまり、シミュレーション上の浸水域を減らしたいなら、盛土して植樹する「緑の防潮堤」などでもよく、全面コンクリート張り防潮堤をわざわざ整備する必要はないと判断しました。シミュレーション上の縮小効果を主な整備理由として認めてしまうと、気仙沼の海岸は防潮堤だらけになってしまうと思ったからです。

【工事費2.3億円は復興予算から】

防潮堤工事の請負金額は2億2858万円です。この財源は25年にわたる復興増税で確保する復興予算です。被災地の復興を願って国民が負担してくれている大切なお金が、本当に必要な事業に充てているかどうかをチェックするのは被災自治体の議会に与えられた役目です。ですから、本当に必要とと判断できない防潮堤工事の契約締結には反対しました。

しかし、議員の考え方はさまざまです。この議案を付託した産業経済常任委員会は全会一致で承認すべきものとし、18日の本会議では私の反対意見に対して、2人の議員が「地元住民が強く望んでいるので賛成する」「地域の話し合いは公平にオープンに行われた。住民合意、市民参加の在り方、地域コミュニティの観点から賛成する」と賛成意見を述べました。

採決の結果は出席議員22人のうち反対したのは私と熊谷雅裕議員だけで、賛成多数によって可決されました。

地域が本気で話し合ってきた分、議会でも本気で議論しなければならないと思っていたので、否決に至らなくても目的は果たせたと思っています。

その議論を通して新しい見解が生まれました。

気仙沼市議会は地域の合意形成の結果を重視するということはもちろんですが、レベル1津波の範囲に特に守るものがなくても、レベル2津波の想定浸水域を縮小する効果があれば、レベル1対応の防潮堤整備を認めるという方針です。

【議案の否決は困難。計画示す前にチェックを】

私が学んだのは、必要性について疑問だと思う防潮堤計画を議会で止めることは難しいということです。ただし、すでに地域と合意形成が終わっていた蔵内漁港草木沢のレベル1防潮堤の計画が撤回されたように、議案として出てくる前なら見直すことができます。そして教訓は、合意形成の段階で正しい情報や知識をもとにしっかり議論すること、行政が計画を示す前に必要性をチェックする態勢をつくることだと思います。

まだ、蔵内漁港の防潮堤工事の工事契約などが残っていますが、前浜の件をもって震災後の防潮堤を巡る気仙沼市内の動きは一区切りがついたと思います。今後は、これまでの記録と教訓をまとめる作業にとりかかり、完成した防潮堤の課題について調査・発信していきます。

この機会に、被災地の防潮堤問題に関心を持っていただいた皆様に感謝を申し上げます。

※下の資料は昨年12月に公表された気仙沼市内の防潮堤の進捗状況です。

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