気仙沼市議会の臨時会が29日に開かれました。唐桑町の2地区の防潮堤工事契約などが承認されました。「地下水脈が分断される」などと防潮堤工事に反対する議員もいましたが、私は「必要なものは地元の意向を尊重して認める」「必要でないものは地元合意が得られていたとしても反対する」という考えをもとに今回は賛成しました。重要なことですので、市の説明内容、賛成と判断した理由を報告します。
議案となったのは、唐桑半島の北側にある石浜漁港、南側にある津本漁港の防潮堤工事の契約です。いずれも震災前に防潮堤はありませんでしたが、東日本大震災の大津波で背後地の集落が被害を受け、防潮堤を新設することにしました。工期はいずれも29年3月24日です。堤防高は発生頻度の高い津波を対象に設定しており、東日本大震災クラスの大津波は越流するため、その想定浸水域は災害危険区域として住宅などの建築が制限されます。
■石浜漁港は11.3メートルに19億円。砂子浜は一部残りそう
石浜漁港には海抜11.3mの防潮堤を整備します。浜を3つの工区に分け、今回は2・3工区の工事を19億4400万円でエム・テック仙台支店が受注しました。復興予算を充てるため、市の財政負担はありません。背後の県道が防潮堤より高い第1工区は、水利の調整で発注が遅れたそうです。
第2工区には、地元に親しまれてきた「砂子浜」という浜があります。防潮堤と船揚げ場の建設によって大半は埋め立てられますが、「少しは残りそうだ」と説明がありました。浜を残すために壁タイプの防潮堤も検討したのですが、地元からは「道路から圧迫感がある」と反対されたそうです。背後地には交通量の多い県道があり、事業所も再建していることから防潮堤が必要だと判断できます。防潮堤内に設置される出入りのためのトンネルには、横引き式の扉ではなく、浮力で起き上がるフラップゲート式の陸閘を別発注することで検討しています。
第3工区は、1件の民家があって県が整備している防潮堤に接続しないと守れないこと、高潮のときでも安心して作業できる水産用地を防潮堤背後地に整備することが建設の理由です。設計上、第3工区だけで6億5千万円の費用がかかります。現場を見た感想としては、市の防潮堤がなくても津波で人命にかかわる被害が発生する場所とは思えませんでしたが、地元からの反対意見がなく、県の工事がすでに進んでいることから承認しました。
■明治三陸津波は防げず、レベル2津波に分類
石浜漁港には注意点があります。堤防高は発生頻度の高いレベル1津波を対象としていますが、明治三陸クラスの津波を防ぐことはできません。シミュレーションでは明治三陸津波で12.8mの津波高だったので、原則は13.8mの堤防高が必要なのですが、堤防高を決める会議で「東日本大震災の津波と近似するので、明治三陸津波はレベル2津波として分類する」と決めたのです。
その結果、昭和三陸津波の痕跡地7m、荒谷前海岸の明治三陸津波の計算値10.3mを比較し、このエリアの最高値となる荒谷前の10.3mを設計津波に設定し、余裕高1mを加えた11.3mになりました。
つまり、新しい防潮堤を整備しても、東日本大震災だけでなく、明治三陸クラスの津波も越流することが想定されている珍しい地区なのです。ちなみに、同じエリアにある馬場漁港などでは明治三陸津波のシミュレーション値が東日本大震災の津波を上回っています。こうした事例を考えると、レベル2津波にも分類されている地区もある明治三陸津波のシミュレーション値にこだわって堤防高が変更できないことは大きな問題だと思います。
■津本漁港は11.2メートルで5億円。まちづくり協議会で議論
津本漁港には11.2mの防潮堤が整備されます。形状は石浜漁港と同じ半傾斜堤で、海側にコンクリートの堤体を立てて背後地を盛り土してコンクリートブロックで被覆します。工事費は5億2218万円で、エム・テック仙台支店が受注しました。
市は漁港ごとに防潮堤計画のチェック表を作成しており、この地区は背後に人家が4軒あり、防潮堤整備による安全確保が必要と判断しています。
■市が漁港ごとにチェック表を作成
当初は、浸水地に住民が戻ってこない想定だったため、防潮堤は不要と考えていましたが、住民が戻ったことで方針を変更。地元住民による崎浜2区まちづくり協議会が議論を重ね、合意に達しました。現地を確認して住民の話を聞いた結果、私もこの防潮堤は必要と判断して工事契約を了承しました。
■災害危険区域の変更必要
津本漁港の課題は災害危険区域の変更です。防潮堤をつくらないことを前提に区域を設定したため、防潮堤があれば区域を変更しなければなれません。住民説明会では、危険区域が大幅に縮小する見込みが示されています。津波シミュレーションは対岸からの反射波なども算定されますので、市はすべての防潮堤計画が固まってからシミュレーションを再度行い、危険区域の変更が必要かどうか判断することにしています。危険区域の内外によって住宅再建の支援メニューが異なり、危険区域から外れれば住宅を建てることもできるので、影響を受けそうな人たちには早めの説明が必要になります。