浦の浜(大島)の防潮堤が合意へ

気仙沼市の大島で海からの玄関口となっている浦の浜漁港。ここの防潮堤計画は高さや形状などを巡って約3年にわたって議論が続いてきましたが、ようやく基本的な方向性について地域代表と行政が合意に至りました。浦の浜の計画には、防潮堤の課題解決のヒントがたくさん詰まっています。

■話し合いに3年超

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上の図面は、2012年7月29日の初めての説明会で示された防潮堤計画です。浦の浜にはもともと防潮堤がなかったので、災害復旧ではなく新設になることから、とりあえず海岸線をぐるりと海抜7.8㍍の防潮堤で囲う案が示されました。住民は「大島は海から恵みを受けてきた」と大反発。2013年12月にはセットバックした上で、海側に土を盛って緑化する案が示されましたが、やはり反対意見の方が多かったので。大島架橋へアクセスする県道のルートなどでも疑問点が指摘され、合意への道のりは相当厳しくなると感じられました。

■復興懇談会が機能

気仙沼市が計画している観光交流施設「大島ウエルカムターミナル」との調整も必要だったため、今年6月、ウエルカムターミナル、県道、防潮堤と合わせて総合的に話し合う「大島浦の浜・磯草地区復興懇談会」を設置。ウエルカムターミナルを所管する市商工課が事務局となり、12月まで計5回の会議を重ねました。

その結果、防潮堤の位置を工夫したことで堤防高は7.8㍍から7.5㍍に下がり、防潮堤の全面の盛り土幅が広がりました。ウエルカムターミナルの駐車スペースも増えました。防潮堤と県道を一体化する「兼用堤」も一部区間で取り入れられます。堤防高を下げた理由は以前の投稿に詳しく書いてあります。

■工夫いっぱいの防潮堤計画に

ご覧ください。下記のイメージ図が話し合いの成果です。防潮堤の海側の盛り土は、二段になっていて、最大幅20㍍の広場も確保。植樹も計画しました。海から見ると、防潮堤には見えないくらいです。防潮堤と盛り土の関係は断面図で確認ください。

リリ

レレ

キキ

ノノ

■ウエルカムターミナル構想も

11月の会議で示された下のイメージ図と比較すると、緑地だけでなく、大型バス用の駐車場も増えていることが分かります。海側の盛り土と緑化は防潮堤事業では認められず、県の財政負担もある事業で実施する考えです。ウエルカムターミナルの敷地かさ上げは、復興予算を充てる予定です。

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12月に県が示した計画を、懇談会のメンバーは容認しました。浦の浜、磯草の自治会代表、住民で組織した「浦の浜のこれからを考える会」、子育て世代の若者、観光協会、振興協議会の代表らも入った懇談会ですので、ここで受け入れられたことは大きな前進です。今後は、19日に振興協議会での説明、その後は関係者への説明と移っていきます。まだまだ調整しなければならないことはありますが、基本的な方向性は固まったといっていいでしょう。

■大島架橋の開通に間に合うか?

心配なのは、「工事だけで3年かかる」という県道です。大島架橋は2018年度内に開通の予定ですが、開通までにすべてのアクセス道が間に合わない可能性があります。防潮堤の本体の整備とウエルカムターミナルの用地かさ上げの調整、土砂の確保などの課題もあり、架橋に間に合わせるのは難しそうです。堤防高の決め方への疑問もくすぶっています。

■浦の浜の事例から分かったこと

最後に、浦の浜の防潮堤議論から学んだことをまとめます。

・最初はかけ離れていても、話し合いによって合意点は見つかる。

・行政は景観に配慮した防潮堤計画を提案できる。

・再シミュレーションによって堤防高を下げられるかどうか行政が検討してくれる。

・レベル1津波の浸水想定、津波から守るべきものを整理すると議論しやすい。

・平面図では分かりにくい。イメージ図があると理解されやすい。

・防潮堤の背後地にウエルカムターミナルのような施設があると、話が進みやすい(防潮堤を造る目的が分かりやすい)。

・合意点を見い出すためには、住民側にも知識や話し合いが必要。浦の浜は「これからを考える会」がその役割を担った。

・説明会の繰り返しでは着地点が見えない。復興懇談会のように、住民代表による調整の場が必要である。

・懇談会では毎回、前回の振り返りをする(前回の議事録を作成して確認することで、同じ話の繰り返しを回避できた)

・諦めなければゴールはある。

 

 

 

3 Comments

  1. 藤盛紀明

    今川様 本ブログ大変参考になりました。舞の浜の決着案や「浦の浜の事例から分かったこと」は復興街づくり
    に大変有用と考えます。
    私は現在建築関連専門紙『鉄構技術』に「建設関連産業の未来のための技術評論」を連載しています。現在連載71回目(2016年6月号)「東日本大震災5年目で考えたこと」を執筆中です。決着案のパースや「浦の浜の事例から分かったこと」の一部を引用したいと思っています。
    如何でしょうか。パースの図は市の許可が必要でしょうか?
    原稿はほぼ出来ていますので必要ならお送りします。
    NPO 国際建設技術情報研究所 理事長 藤盛紀明

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  2. 今川 悟 (Post author)

    藤森さま、ご連絡ありがとうございます。
    私の文章の引用は構いませんが、パース図については宮城県気仙沼地方振興事務所水産漁港部(電話0226-22-6825)へ確認ください。新聞にも掲載されたので大丈夫だと思います。元データは県のホームページにもあります。http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/340725.pdf

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  3. 藤盛紀明

    今川様
    ありがとうございます。
    県に連絡してみます。
    藤盛

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