地方創生の一環で、気仙沼市移住・定住支援センターがオープンしました。全国でも珍しく、若い移住者たちが中心になって運営していきます。わずかに心配な面もありますが、新しい視点で気仙沼の魅力を発信したり、自らの経験を生かして相談に乗ったりしてくれると期待しております。
■「海の市」2階に相談窓口
センターは気仙沼魚市場に隣接する観光施設「海の市」にあります。震災前はレストランだった2階のスペースを活用し、来年2月末までは毎週水・土曜日に窓口を開きます。電話(0226-25-9119)やメールでの相談なら火曜日から土曜日まで、10時から18時まで受け付けます。来年3月からは週5日の窓口とする予定です。
■「移住はゴールではなくスタート」
市の委託を受けて運営するのは、一般社団法人まるオフィス。スタッフ6人はインターンの大学生を含めて全員が移住者。しかも若者ばかりですが、「移住がゴールではなくスタート。移住者を増やすだけでなく、移住したあとにチャレンジできることが大切」としっかりした考えを持っています。震災後に移住してきて、それぞれ地域の中で着々と成果を重ね、信頼を得てきた若者たちですので安心して下さい。Iターン、Uターン、Jターンをお世話する「ターンコーディネーター」という新しい役割の中で、ターンには「方向転換」「変化する」という意味もあることから、移住者に伴走しながらの挑戦を支えてくれます。
センターの役割は、相談窓口のほか、ホームページでの情報発信、地域の受け皿づくり、空き家バンクを活用した住まいの紹介、お試し移住プログラムの提供、気仙沼ファンの交流会などです。同じスペースには、間もなく「気仙沼まち大学」もオープンします。新しいまちづくりの中でも移住者の役割は大きく、移住とまちづくりの相乗効果が期待されます。いずれは、地域おこし協力隊の隊員も加わる予定です。
■開所式で移住者がディスカッション「自分の価値を見い出せた」
センターの開所式では、高校生のまちづくりを応援する「認定NPO法人底上げ」の成宮崇史さん、復興支援でUターンした「東北未来創造イニシァティブ」の小松志大さん、東京から移住してシェアハウス暮らしを楽しむ「まるオフィス」の根岸えまさんがパネルディスカッションしました。ファシリテーターは、気仙沼にたくさんの若者を送り込んでくれているNPO法人ETICの諸希恵さんです。
「身内の反対を押し切って気仙沼に戻った。生まれたところがこんな状況なのに帰れない」と残り続けている小松さん。東京から移住した成宮さんは「誰かの力になれる、必要とされることで自分の価値を見出すことができ、残っていこうと思った」と話しました。唐桑を元気にしている根岸さんは「どん底から這い上がろうとする漁師のの生き方がかっこ良かった。都市部での安定した働き方も選べたけど、自分の本当の気持ちを大切にした」と振り返りました。
会場に集まった移住者からも「気仙沼はウエルカムな雰囲気が強く、新しいことを応援してくれる」「面白い人がたくさんいる」「都市に魅力的な仕事が少ない中、気仙沼にはやりがいのあることができる」という意見がありました。
■震災を契機に若者移住が増加。「自分ごと」のという発想
震災前にも移住者が注目されたことがありましたが、それは定年後のセカンドライフでした。震災後は、新しいことに挑戦するエネルギーを持った若者たちの移住が注目されています。ユニークな移住者がさらに移住者を呼び込むという好循環をもたらしており、この流れを止めずに応援していくことが必要です。当面の課題は、家賃が高い気仙沼での移住者のための住まいの確保、そして移住者をサポートする市民との出会いの場づくりだそうです。Uターンは仕事の条件にも厳しくなります。
移住した皆さんの話を聞いていると、気仙沼で起きている問題を「自分ごと」として考えるきっかけづくりが一つのポイントだと感じます。気仙沼出身者は、何もないこと、人間関係が近すぎることが嫌で都会に出ていく人が多かったのですが、都会からの移住者はそれが魅力になっています。そして、地元の人が当たり前だと思っていたものを魅力として教えてくれています。
■自分で決めていく生き方と幸福度の関係
50年後のために菅原市長らと視察した米国ポートランドでは、自分たちで決められることが幸福感の高い人生につながっていることを学んできました。米国では「しょうがない」という意味の言葉がないそうです。震災前の気仙沼は、「長男、長女だから気仙沼に残った」「しょうがないから」という空気に満ちていましたが、震災を経験して「自分たちのまちの未来を自分たちで考えよう」という意識が芽生えています。自分で気仙沼に住むことを選んだ移住者たちによって、その意識はさらに高くなっている気がします。人口減などの問題を抱える地域だからこそ、移住者の新たな挑戦によって変化することがたくさんあります。挑戦とはいわず、のんびりとするための移住も歓迎です。興味のある方は、ぜひセンターに相談してみてください。