気仙沼市議会の定例会のため遅れてしまいましたが、6月19日に開かれた神山川の堤防計画見直しに関する説明会の報告です。県からは堤防の工事区間を当初計画より190m短縮することで、桜を17本程度保存する案が示めされました。
神山川の堤防については、昨年3月の説明会で地域が一度は合意し、神山橋から条南中学校前までの575m区間をかさ上げし、コンクリートで全面覆う計画で進むことになりました。この区間を含めて工事契約が県議会で承認され、昨秋には約60本の桜をすべて伐採する計画でした。
しかし、津波に耐えた桜並木を少しでも残そうと呼び掛けたところ、4712人の署名が集まり、宮城県に計画見直しを求めました。そして昨年8月の説明会では、震災後の地盤隆起を反映して計画を見直す方針が示されました。詳しくは6月15日のブログをご覧ください。
【地盤隆起は21.8センチ。工事区間を190m短縮】
3月の説明会は20人ほどの出席でしたが、今回の説明会は地区内外から85人も集まり、いすに座れない人もいました。出席者の約3割が地元の住民でした。
県の説明によると、今年の2月の水準点改定により、平均21.8㎝の地盤隆起が反映されたことを反映させるとともに、わずかに計画堤防高の海抜3.7mに不足する区間は3面コンクリート張りではなく、天端のアスファルト舗装によって高さを補うことで、工事区間を190m短縮することにしました。
【不足する高さは洪水対策で】
もう少し詳しく説明すると、神山橋のたもとの水準点は震災前に海抜3.91mでした。震災による地盤隆起によって3.31mに変更されましたが、今回の改訂で3.51mになったのです。近くの水準点も同様に隆起したため、その平均の21.8㎝分を堤防高に反映させました。簡単に言うと、当初の計画のまま堤防をつくると21.8㎝分が必要より高くなるため、その分を差し引いたら、17本程度の桜が残せるようになったということです。
しかも、わずかに高さが足りない部分は、洪水対策の事業と組み合わせることで、天端を舗装することで対応します。この分は15㎝程度まで許されました。少しの盛り土区間はコンクリートではなく土でもいいという要望に応えてくれたのです。
一方、予定通りコンクリート3面張りにする区間は、右岸の堤防が隆起分を反映させたない高さで完成しているため、それと同じ海抜3.91mで整備します。「計画を超える津波や洪水が発生した場合、片方だけ堤防が低いと被害が集中する」という理由です。
秋ごろには本格的に工事に着手するため、9月ごろに桜を伐採するスケジュール案も示されました。
【満席の会場から賛否両論】
前回の説明では、25㎝隆起していたとしても5本程度しか残せないという説明だったため、洪水対策を組み合わせることで17本程度に増えたことで、署名活動の中心となった地元のメンバーは「要望に応えてもらった。堤防を早く造ってほしいという住民もおり、苦渋の決断だが、安全が第一、桜は二番目」「桜はいずれ寿命がくる。安全は何より大事」と計画を受け入れる考えを示しました。
一方、「津波に耐えた奇跡の桜はすべて残してほしい」「「もっと残す工夫ができるのではないか」「魅力が失われ、暮らす人がいなくなれば安全の意味がない」さらなる見直しを求める意見が続出しました。
地元住民以外からとはいえ反対意見が相次ぐ中で、県は「これで了承したとは判断できない。あらためて意見を聞く機会を近いうちに持ちたい」と再び説明会を開くことにしました。ただし、「安全性を低下させないで桜を残そうと検討した結果であり、地域の安全性を第一に考えたい。一定の合理性を持った計画であり、見直すべきとは思っていない」とも説明しました。
【安全と環境の両立は可能なのか?】
私なりに考えてみましたが、県としては相当な妥協案を提示してきたと思います。地盤隆起の反映にとどまらず、レベル1津波対策から洪水対策に切り替えることで、桜の保存範囲を拡大しました。津波と洪水の安全、桜の保存の両方をぎりぎりまで考えた計画だと評価します。
しかし、より多くの桜の保存を望む市民の声は無視できません。
これ以上の見直しのためには、考え方を変えなければなりません。その一つは、今後も地盤隆起が続く可能性が高いことを考慮し、震災前の水準点を採用することで、堤防高をあと40㎝下げるという考え方です。しかし、これでは住民の不安は高まってしまいます。
次の提案は、右岸と堤防高を合わせず、左岸は海抜3.7mで統一するという考え方です。この高さでも明治三陸級のレベル1津波だけでなく、東日本大震災と同じ津波も防ぐことが確認されています。ここで問題になるのは、洪水対策です。過去に神山川が氾濫した記録、左右の高さが違うことによる影響について整理し、住民の不安を取り除かなければなりません。
なお、説明会では「大雨で冠水から堤防を早く造ってほしい」という意見もありましたが、堤防を乗り越えてくる洪水とは分けて理解してもらわなければなりません。堤防ができても大雨で貯まった水の被害は同じで、この対策は渋抜川へのポンプ場設置などが進められています。コンクリートの堤防は、雨水を吸収せず、氾濫した川へ落下する危険性も増してしまう恐れがあるのです。
【解決策は粘り強い構造にこだわらないこと】
最後の提案は、堤防の高さは変えずに、構造を変える方法です。説明会前に専門家が視察してアドバイスをくれたことを6月15日のブログで紹介しましたが、支流の上流まで海岸と同じ「粘り強い構造」にするのはやりすぎです。住民もコンクリート張りを望んでいる分けではありません。粘り強い構造から脱却すれば、震災前の下流(下の写真は南郷地区)のように、簡易な胸壁でも洪水対策としては十分です。
断面図のイメージを作成してみました。L型擁壁を堤防にする方法なら、背後の市道も広くすることができます。この手法は「粘り強い構造」というルールでは採用できませんが、堤防高を確保しながら桜を残す「安全と環境の両立」の一つの考え方だと思います。
また、防潮堤の選択肢には「レベル1堤防」と「原形復旧」という手法があります。原形復旧の場合、地盤沈下分をかさ上げできるのですが、この場合は「粘り強い構造」が求められません。海岸では70~100㎝ほどをかさ上げしており、神山川の上流部はレベル1堤防なのに、原形復旧の地盤沈下分よりも少ないかさ上げ幅となっています。県のルール内で考えると、原形復旧に切り替えることで、高さも景観も確保することができるのですが、この場合も「土でなければならない」という壁があります。いくつかの手法を柔軟に組み合わせることが必要のようです。
下の資料は、東松島市での護岸復旧です。石積みでの施工、松並木の保全など、神山川にも適用できそうな事例として紹介します。国交省の「美しい山河を守る災害復旧基本方針」でも、河畔樹木については「被災箇所に河畔樹木がある場合には、現地において河川環境に対する機能を理解し、治水上の支障がない限り保全することを原則とする」と明記してあり、三面コンクリート張りは想定外のようです。
30本残す計画策定をお願い致します。
よろしくお願いします