宮城県が防潮堤の見直し案を示していた気仙沼市唐桑町の鮪立(しびたち)漁港で、8月8日夜に説明会が開かれました。地域が回答を保留していた一部の防潮堤を造らない「無堤化」について、受け入れることで一致しました。
防潮堤問題に正面から向き合ってきた鮪立地区。当初は海抜9.9mの防潮堤を海岸線に張り巡らす計画でしたが、セットバックし、市道との兼用堤とした上に、高さも8.1mまで引き下げるまで県の妥協案を引き出していました。地権者らの意向で最後に浮上した一部無堤化案については、地域で賛否が割れていましたが、復興を進めるために歩み寄ることになったのです。
■自治会が県の見直し案を受け入れ
今回の説明会は、鮪立自治会、地域のまちづくり組織である「みらい会」の要望により、前回(7月12日)と同じ内容が説明されました。
県は「防潮堤の配置計画については最後の説明会にしたい」、自治会とみらい会も「被災者を置き去りにして主義主張に時間を費やすのは限界。先に進めたい」と県が前回示した案で進めることに理解を求めました。
■最後は拍手で承認
説明会で質疑した住民は計8人。避難道などについて意見が出ましたが、県の見直し案を支持する意見もあり、最終的には拍手によって承認されました。拍手による承認はいろいろ問題もありましたが、今回は大多数の人が賛同したことを見届けました。
24年夏の説明会から丸3年。鮪立地区は住民アンケートをしたり、代替案を模索したり、市に協力を呼び掛けたりといろいろな角度から防潮堤問題に向き合いました。最後の方は地域内で意見が分かれる場面もありましたが、いずれも地域を思ってのことだったので、ちゃんと納得のいく着地点を見つけられたのだと感じました。行政側も、それぞれの思いをくみ取った案をまとめたと受け止めています。
※県が作成した見直し案のイメージ図(写真右側の防潮堤が山付けとなり、一部が無堤化された)
■問題と向き合ったことで見つけた着地点
気仙沼市は防潮堤問題で揺れましたが、鮪立地区に象徴されるように、海との暮らし、安全な暮らしを両立しようとしているための混乱でもあります。時間がかかっても、鮪立地区が答えを見つけたように、それぞれの地区が着地点にたどり着けるように、これからも見守っていきます。しかも、さまざまな知見が得られているので、残った地区はよりよい答えを見つけられることを期待したいです。
前回の説明会の内容、堤防高を下げた経緯などは以前のブログで紹介しています。
先生、おはようございます。
今回は合意形成について、先生に質問させていただきます。
復興計画に限らず、住民間の合意形成には様々な手法があり、それぞれに長所と短所があります。
例えば、説明会であったり、ワークショップでは、顔が見えた議論はできますが、参加者層が偏ったり、特定の人間の動きに左右されることがあります。言いかえれば、サイレントマジョリティーの動向を探れないという欠点があります。
逆に、住民アンケートでは幅広い意見を拾えますが、住民側が計画の動きを直に捉えられない分、不満が溜まり易い傾向にあります。
他にも、裁決に多数決を用いると対立構図を可視化させかえって激しくなったり、聞き取り調査の方法によって住民の意思の見え方が異なる場合があります。
住民側ではなく、行政側にも、公僕と呼ばれて、時には身勝手にも見えるような住民の要求を受け取り続ける不満の蓄積という問題もあるでしょう。
合意形成の過程では、このようなさまざまな現実的な障壁があります。
先生は、記者、そして議員として、合意形成の場を直に、数多く見られたと思いますが、先生はその経験から、合意形成の成否はどこにあるとお考えでしょうか。
そして、鮪立の件から、他の地域の合意形成に活用できる要素というものは何かあったでしょうか。
いつものように、答えにくい質問になってしまいましたが、よろしくお願いします。
合意形成のあり方ですが、これはとても難しい問題で、まだ答えにはたどり着いていません。
とはいえ、被災地では防潮堤問題をはじめとするさまざまな岐路があり、そのたびに合意形成の貴重な教訓が得られています。
私なりの現時点での答えは、行政側のスタンスです。
ワークショップであれ、多数決であれ、アンケートであれ、住民側には限界や偏りがあります。そこで行政がしっかりと情報を整理して提供するだけでなく、それぞれのメリットとデメリットを示した上で、行政としてベストと判断した案を提示することが大切だと思います。
小・中学校や保育所の再編のような厳しい判断を迫られる事例はほかにもありますが、最近の全国的な傾向なのか、住民による検討委員会へ案作りから任せています。しかし、それは経験や専門知識を持つ行政としていいのかどうか分からなくなるときがあります。やはり、行政として責任は大事です。
鮪立の事例でいうと、住民側の熱心な情報収集やアンケート、ギリギリの話し合いのだけでは、計画見直しは困難でした。気仙沼市の働きかけによって湾口付近の海底地形をより詳細に調査して津波シミュレーションに反映させたり、県が守るべき施設を明示したりしたことで、住民は判断できたのだと思っています。
県の担当者が時間をかけて住民と話し合い、着地点を一緒に考えた姿勢も評価すべきです。正しい情報と知識があれば、住民は正しい判断をするということだと思っています。
先生、いつも丁寧な説明をありがとうございます。
小・中学校や保育所の再編に関してですが、私も先生がおっしゃるような事情を把握しています。
公共施設の再編問題は、過疎地だけではなく首都圏でも問題化しており、過去のベットタウンの多くでこのような問題に直面しているようです。
「鶴ヶ島プロジェクト」などは成功例としてあげられますが、このテのプロジェクトは潜在的な批判因子を封じるという意図が大きいようです。また、行政・住民・専門家を橋渡しする優秀なキュレーターがいるかどうかが重要になってきますが、日本にはそのような人材が少ないという現状があります。
何よりも、東北はいかに早く復興するか(この部分にとらわれ過ぎてもいけませんが)という課題がありますから、時間猶予がある他地域のプロジェクトと安易な比較はできません。
ですから、先生がおっしゃるように、行政側が丁寧で毅然とした対応を持って、主動的な役回りをすることが一番と、私も考えています。
先生のホームページで、長々とコメントしてしまい、申し訳ありませんでした。それでは。
お世話になります。
鮪立漁港の計画決定までの過程は、他地区(住民)及び気仙沼市(行政)にもモデルケースとして参考にして欲しいですね。
鮪立自治会、地域のまちづくり組織である「みらい会」がこの町の将来像を考え、その熱い思いを行政側にぶつけ、行政側がこの町の将来像をイメージ(理解)出来た結果だと思ってます。
先生がホームで取り上げれている「鶴ヶ浦地区」も、取り巻く環境も似たような感じだと思うので、鮪立地区と同じようなが形で合意形成が図れれば望ましいですね。