いろいろと課題を抱えている被災地の防潮堤計画ですが、今回は気仙沼市大島の小田の浜海水浴場を例に「原形復旧」について考えてみます。
■「原形復旧」は選択肢の1つ
被災地の防潮堤整備には、3つの選択肢があります。①何も造らない「無堤化」②震災前に戻す「原形復旧」③レベル1津波を防ぐ高さでの整備…です。高さや位置が変更された地区もありますが、基本的にはこの3つの考えから逸脱することはできません。
気仙沼市内では74カ所が防潮堤整備が計画されており、このうち31カ所が原形復旧を予定しています。ほとんどは背後地が高台だったり、周囲に民家がなかったりして最初から原形復旧を計画しましたが、大島の田中浜、小田の浜、鹿折の小々汐のようにレベル1防潮堤の計画から原形復旧に変更した例もあります。
■元に戻すイメージが…実際はかさ上げも
原形復旧というと、壊れた防潮堤を元通りに直すイメージがあります。しかし、形だけでなく、高さも元に戻すため、震災前と異なったものになっているのです。
一番多いケースは、防潮堤そのものはほとんど被害がなかったのに、その上に1m程度の防潮堤を追加する工事です。周辺の地盤も一緒に沈下しているのに、防潮堤だけ高さを戻すと、震災前より1m高くなって見えます。
上の写真は、大島の長崎で昨年撮影しました。原形復旧なので沈下分をかさ上げしたのですが、背後の道路高は沈下したままなので、海が見えなくなってしまいました。
住民説明会で「原形復旧」といわれると安心してしまいますが、住民目線で見ると1m程度かさ上げする結果となったのです。
■小田の浜は不安的中。すでに工事入札公告
大島では、この教訓を小田の浜海水浴場に生かそうとしました。当初は堤防高11.8mだった計画が原形復旧(堤防高3.5m)に変更された後も、その内容に注意していたのです。
小田の浜の防潮堤は、海水浴場としての利便性や景観を重視して一部が階段状になっていました。最初に要望したセットバックは用地の関係で不可能になりましたが、沈下分をかさ上げするにしても、同じように背後地と海岸の一体感を求めたのです。
ところが、担当する宮城県は今月17日、地元の意向を反映させないまま、工事の入札を公告しました。心配していた通り、かさ上げによって海水浴場と背後地を分断する設計になっていました。しかも、原形復旧だからなのか具体的な内容について地元への説明はなかったようです。
■砂浜と背後地を隔てる壁追加?
上の断面図のように、元々ある階段状の構造に、約1mの壁(赤線部分)を追加してしまうのです。1mならなんとか乗り越えられる高さですが、既存の構造に比べると大きく異なります。
このままだと、8月6日には入札が開札されます。契約後に設計を変更することも可能ですが、それは一定の範囲内に限られます。
大島架橋が完成すれば、小田の浜海水浴場の価値は一層高まります。原形復旧とはいえ、その内容をしっかり注目していきましょう。
なお、震災後も地殻変動が続き、気仙沼では地盤戻ってきています。笹が陣の観測地点では、震災によって65㎝沈下した後、少しずつ隆起し、4年後には21㎝戻りました。防潮堤の高さにも反映させたいところですが、県は「国から指針が示されていない」と否定的です。
先生、お早うございます。
私は、名取市沿岸部の防潮堤のイメージが頭から離れません。大きさは、沿岸部を数十キロ、幅は数百メートル、高さは4~5メートルでしょうか。
そんな巨大な防潮堤で隔絶された名取の海岸線は、今でもゴミだらけです。時々、同じ場所を訪れるのですが、何年たっても同じゴミがずっとそこにある。夏だというのに、人っ子1人いない砂浜。現実の世界とはとても思えません。
私は宮城生まれでも、海育ちでもありませんが、そのような現実離れした風景を見ていると、先生の防潮堤に関する複雑な思いが少し理解できるように思います。
今回は、砂浜と防潮堤の取り組みについて、質問させていただきます。
被災地では現在、防潮堤や消滅した砂浜回復についての様々な取り組みがされています。
岩手県山田町船越、宮城県東松島市野蒜・名取市の沿岸部では、美しい景観を新しくつくるために、防潮堤の上に防潮林を作り上げようという取組が行われています。
また、東北大学では津波で失われた「砂浜の回復シュミレーション」と「砂の人工供給による海岸線回復」の研究が盛んに行われています。
先生は、このような取組をどのようにお考えでしょうか。気仙沼市はまだそのような段階に踏み込めていない現状があるのでしょうか。
答えにくい質問かもしれませんが、よろしくお願いします。
砂浜の回復シミュレーションは、復興交付金の効果促進事業で認められており、気仙沼市もお伊勢浜海水浴場で調査中です。
ただし、砂浜のシミュレーションは何年もかけて行わなければ分からないこともあり、期待しているような成果を出せるかどうかは分かりません。
なお、砂浜の再生を目指す海岸(海水浴場)は、基本的に防潮堤をセットバックしています。防潮堤本体が及ぼす影響というよりは、沖合に復旧させる離岸堤、または砂の供給源である河川の構造物、あるいは地盤沈下による問題と考えています。
結果的には、陸前高田市の高田松原のように砂浜を搬入することも選択肢になるかと思われます。
いずれにしても、これから防潮堤工事が本格化するので、海水浴場を再開するのにも時間がかかる可能性があります。砂浜再生の財源や事業の問題もあります。
いつも丁寧な回答ありがとうございます。
防潮堤によって、海が見えないという景色にはいまだになれません。防潮堤の存在を否定はしませんが、システム上、防潮堤をつくらなければ、復興計画が何も進まない現状には、私はやはり頭をかしげたくなります。
はじめまして。ホームページに掲載される復興事業の内容をいつも拝見させて頂いております。、独自に詳細な情報を収集され、鋭い指摘をされているのを、いつも関心しているところです。
今回の「震災によって65㎝沈下した後、少しずつ隆起し、4年後には21㎝戻った」について、県は「国から指針が示されていない」と否定的意見については、県の担当者はどうすれば高さが改正させれるのかを理解されていないと思われます。
標高の基準は、国土地理院を管理している一等水準点を基準しており、公共事業で行われる工事の大半はこれを元に実施されております。
ついては、この水準点の高さを変更すれば大半の工事はこれを元に実施されます。 しかし、現在も地盤の隆起している状況であるため、国土地理院側は隆起が安定してから一等水準点の高さを変更しよう考えているようです。
仮に国土地理院が標高を変更した場合も、現在工事されている防潮堤は21㎝高く施工され、標高変更後に21㎝低い施設作ることも問題があると考えております。
国土地理院が、現在の復興事業で高さが問題になっていることを理解して頂き、暫定的な成果として公表して頂くの一番望ましいと思っております。
復興応援団さま
ホームページを見ていただ上に、参考になるご意見ありがとうございます。
防潮堤と基準点の問題は、実は私の中でもちゃんと整理できていない点があります。
国土地理院に理解してもらうためにも、具体例を取り上げて、継続して問題提起していきます。