道路兼用の防潮堤で合意【小鯖漁港】

震災前の小鯖

宮城県が気仙沼市唐桑町の小鯖漁港で計画している海抜9.9mの防潮堤。当初は海岸線沿い計画しましたが、内陸に約100mセットバックし、さらに防潮堤の上に市道を移設するという変更案を示して地域の合意を得ました。

小鯖は入り組んだ地形のため、セットバックによって二つの谷をふさげば、背後地への浸水を防げることになりました。昨年5月の説明会では、背後に民家がある北側は必要でも、あまり影響がない南側は不要だという意見があり、今月11日に再度説明会を開きました。

この図は住民が合意した計画です。

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異議を唱えた若者の姿は今回の説明会になく、二つの谷を防潮堤でふさぐ県の案が了承されました。「何回も集めないでほしい」という年配男性の発言があったように、多くの住民が結論を急いでいました。住民合意を受け、これから詳細の測量と設計、用地買収を進め、28~29年度の施工を予定しています。

【セットバックと道路兼用堤で合意】

小鯖漁港の防潮堤について、ここでしっかりまとめておきましょう。

そもそもは国の方針を受けて、県が中心となって堤防高を統一するユニットを決めました。小鯖~鶴ヶ浦は明治三陸級の津波を防ぐ9.9mの高さとなり、「堤防高は変更できない。位置と形状で調整する」と県は説明してきました。

次の図は、24年7月に示した当初計画です。

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24年7月に開かれた初めての説明会では、海岸線に台形タイプの防潮堤を整備する案を示しました。それでは漁港としての機能が保てないので、26年5月の説明会でセットバックと指導との兼用堤案を正式に提示したのです。セットバックによって漁業用の作業スペースを広く確保することができました。

市道との兼用堤案は、鮪立漁港の議論から出てきました。鮪立も小鯖も平地が少なく、この市道も集落が孤立しないために津波被害から守ることになり、防潮堤の上を走らせる案が出てきました。住民が提案したものの、最初の説明では否定され、諦めずに議論を続けたことで認められた設計でした。

議論を積み重ねた上での最終設計案ですので、この案のまま進めることは仕方がないと思います。

しかし、これがベストかと問われれば疑問は残ります。

【何を守るのか】

今後のために問題点をいくつか指摘しておきます。

もっとも大きな問題は、防潮堤を大幅にセットバックしたことで、守るべき土地も大幅に減ってしまったことです。防潮堤とはいえ費用対効果の視点が必要ですが、海岸線に防潮堤があった場合と比べると、レベル1津波から守れる背後地はごくわずかです。東日本大震災の浸水域(図㊤)と、計画通り防潮堤を整備した場合のレベル2津波の想定浸水域(図㊦)を比べても、防潮堤による減衰効果はわずかな面積です。

小鯖の震災前

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次の図は、南側の防潮堤をなくした場合のレベル2津波の浸水域です。防潮堤が守るわずかなエリアに、これから施設整備などの予定はあるのでしょうか。

 

EPSON MFP image

防潮堤の背後地は災害危険区域に指定され、民家の建設は制限されます。水産関係施設のための用地は防潮堤の海側にありますが、海沿いには防潮堤はまったくありません。ここは災害復旧ではないので、原形復旧という選択肢もないのです。

防潮堤の上を走ることで、レベル1津波から道路を守ることはできます。そもそも、最後の住民の議論は道路に集中し、防潮堤の役割はあまり議論しませんでした。この事業は、防潮堤なのか、道路なのか、いろいろな議論を重ねるうちに見えにくくなってしまったのです。

防潮堤の整備は15億円程度ですが、防潮堤以外の道路部分は別費用がかかります。

もし、災害危険区域を変えないように自由に設計できるとしたら、海の近くに3mほどの防潮堤を整備して1線堤とし、背後の市道を盛り土して2線堤とすることで、レベル1津波もレベル2津波もより効果的に防げたのではないのでしょうか。堤防高に縛りがあったため、レベル1津波を完全に防げることはできても、防潮堤より海側の土地は小さな津波さえ防げないエリアになってしまいました。

【堤防高ありきの計画に疑問】

そもそも、防潮堤に求められているのはレベル1津波を完全に防ぐ機能であり、レベル2津波は避難や建築制限なども合わせて多重防御する方針でした。その説明にレベル2津波(災害危険区域)が加わったことで、防潮堤を造らなかったり、高さを下げたりすることが難しくなってしまったのです。

国は多重防御の指針を示しておきながら、地盤をかさ上げできる一部の市街地を除いては、防潮堤と災害危険区域指定以外の津波防御施設整備事業を用意しませんでした。せめて、背後地の道路の盛り土による2線堤効果を認め、防潮堤の高さに自由度があれば、小鯖のような問題は発生しなかったかもしれません。

【ユニットは崩れる】

隣りの鮪立漁港は、独立したユニットとして認められ、堤防高を下げることに成功しました。鮪立が独立したことにより、結果的に小鯖も単独ユニットになったのです。小さな湾の中で、レベル1津波を防ぐ方法を考えることもできたのです。

難しいのは、津波で被災して修復した家屋がある場合です。県はレベル1津波の想定浸水域に1軒でも民家があれば、防潮堤を整備する方針です。ここに費用対効果の考えはなく、安全が最優先されます。ただし、そうした家は東日本大震災の津波で被害を受けて修復し、災害危険区域内なので建て替えはできない家なのです。いわゆる既存不適格建築物ですが、命のことになると「防潮堤は造らない」とはいえないのです。

東北の堤防高ありきの計画を教訓にして、これからの津波防災はより柔軟に考えてください。

 

 

 

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