生産と所得から分かる気仙沼経済の課題

宮城県が2012年度市町村民経済計算を公表しました。県内35市町村の総生産額、住民所得が分かるデータですが、気仙沼市は一次産業に震災の影響が表れたほか、総生産が県内9位でありながら、1人当たりの所得が33位となりました。簡単に言うと人口規模の割には所得が少ないということです。

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■気仙沼の経済成長はプラス11.9%だが…

GDP(国内総生産)の市町村版から分かるのは、各自治体の産業バランスや経済成長率です。震災後であまり参考にはできませんが、気仙沼市の経済成長率はプラス11.9%(市内総生産の前年度比)でした。県平均がプラス8.8%だったので、それなりに経済が回復しています。

気仙沼市の2012年度総生産は1789億円でした。前年度比で11.9%増加していますが、2010年度と比べると9.7%減っています。10年前から22.7%も減少しました。

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■建設業は震災前の2倍に成長

成長著しいのは建設業です。2010年度に137億円だった生産額は、復旧・復興事業によって2011年度に255億円、2012年度に286億円に増加。近年で最も厳しかった2007年度の84億円に比べると、2012年度の実績は3.4倍です。市内総生産に占める割合も2010年度で7%だったのですが、2011、2012年度は16%に跳ね上がりました。

■農林水産は10年間で半減

一方、生産力の低下が目立つのは農林水産業と製造業です。

農林水産業の2012年度生産額は89億円(魚市場の水揚げ額からすると少ない気はしますが、統計上の計算です)。震災前の15%減と踏ん張ってはいるものの、10年前の半分以下です。

食品加工が中心の製造業の生産額は131億円でした。前年度より7億円増えましたが、震災前の46%どまりです。工場の再建によって2013年度以降は実績が確実に伸びていきますが、どこまで成長できるかを注意深く見守る必要があります。

■所得は県内ワースト3

市内総生産が震災前の90%まで回復した一方、雇用者報酬は76%の回復にとどまっています。ここに気仙沼経済の大きな課題が見え隠れします。

2012年度の雇用者報酬は764億円でした。2010年度は1005億円、10年前の2002年度は1327億円です。10年間で市内総生産額は23%の減少にとどまっていねのに、雇用者報酬は42%も減少しました。そして、市民1人当たりの所得は183万4千円で前年から11%増えたものの、県内のワースト3になりました。ちなみに、最下位は南三陸町、ワースト2は七ヶ宿町でした。トップの仙台は、気仙沼の2倍に近い358万円でした。

ただし、就業者1人当たりの労働生産性では、気仙沼市は793万3千円で29位でした。トップは七ヶ浜町の1507万5千円、最下位は白石市の619万8千円です。

データばかりで分かりにくかったかもしれませんので、まとめると、市内の生産力は全般的に衰頽する中で震災が発生し、さらに弱まったものの、建設業が異常に強くなりました。しかし、一時的な復旧・復興事業による活気のため、産業全般の底上げには至っていません。今まで地域経済を支えていた水産業、製造業の打撃は大きく、回復には時間がかかりそうだということもデータで裏付けられました。しかも、一次産業が主体のため、生産力はあるのに住民所得が低いということも、他市町との比較、過去との比較から鮮明になったと思います。

■経済の復興速度に地域格差

最後に、きちんと分析はできていませんが、津波で大きな被害を受けた13市町のうち、石巻や亘理など10市町は震災前より2012年度の総生産が上回っていました。名取市は建設業だけでなく、製造業、卸売・小売業も震災前より生産額を上げ、総生産は震災前より17%増加しました。

震災前を下回ったのは、気仙沼、松島、女川です。女川は原発関連の産業が影響したようですが、松島は気仙沼と同じように製造業の減産が大きく響きました。産業構造によっては、ちゃんと復興特需が地域経済を支えているのに、偏った産業構造だと痛手を受けるということが経済データでも証明されました。

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