気仙沼市で中学校再編に向けた説明会が開催されています。少子化に伴って9校を4校に再編する案が示されていますが、統合の必要性には理解を示しつつも、遠距離通学や地域コミュニティへの影響を不安視する声もあります。
なぜ、統合が必要なのか。他の道はないのか…。
記者時代を含めて数多くの学校統廃合に関わった経験をもとに分析しました。
【進む少子化。避けられない統廃合】
気仙沼市の少子化は加速するばかりです。全国的な課題である未婚・晩婚化、合計特殊出生率の低下に加えて、高校卒業とともに若者が市外に出て戻ってこないことで、年間出生数は30年間で7割も減少しました。
この状況を受けて、震災後に小・中学校の統廃合が本格化しました。集団移転した地域から学校がなくなったり、まだ新しい校舎なのに閉校の対象になったりと戸惑いもあり、全校児童・生徒数数十人の小規模校でも合意形成は難航しました。これまでの状況はこの今川悟ホームページ内のタグ「学校再編」からご確認ください。
※下表は暦年(1-12月)の出生届と学年別の児童数(未就学児は住民登録数)
【新たな再編計画へ中間報告を公表】
平成25年に策定(同28年に見直し)した気仙沼市義務教育環境整備計画は小学校は20校を12校に、中学校は13校を9校に再編しました。計画にあった月立小と新城小、大島小と鹿折小の統合は見送られ、階上中と大谷中の統合は白紙撤回されました。
少子化は深刻化し、新たな再編が必要になったため、令和5年11月に小・中学校再編検討準備会を設置して計画策定のプロセスから話し合いました。計3回の会議の結果、再編に合わせて魅力ある学校づくりについても検討すること、市民の理解を得るために検討状況を積極的に発信していくことなどの意見をまとめました。【再編準備会のまとめ】
令和6年6月に小中学校再編検討委員会に移行し、計8回の会議をはじめ、議論を深めるためのグループディスカッション、保護者や地域を対象にした説明会、小・中学生の意見を聞くワークショップなどを経て、令和7年4月に中間報告を公表しました。検討委員会の資料や議事録、中間報告の詳細は市ホームページで公開しています。
【小学校は現状維持、中学校は2学級以上に】
中間報告は、教育長から受けた5つの諮問事項に合わせてまとめられました。再編の基本的な考え方は、①小中学校ともに数校に再編②小学校と中学校で考え方を分ける③小中学校ともに現状維持-で検討した結果、②の考え方に基づき、小学校は地域とのつながりなどを重視して現状維持、中学校は社会性を伸ばすために各学年で複数クラスとなるように4校へ再編する案を示しました。
「統合」ではなく「再編」という表現にしたのにもこだわりがあります。これまでの統合は、大きな学校へ小さな学校が吸収されるイメージが強かったのですが、今回は市全体での再編という考え方を目指したいからです。「まちは一つのキャンパス」として、市全体で教育力を向上していこうという意見もあります。
※諮問事項に対する中間報告での考え方、再編を契機にした学校の魅力化向上策は下表のとおりです
【中学校を4校に再編する理由とは】
中学校を9校から4校にする案は唐突なイメージもありますが、実は前再編計画に布石がありました。地理的状況や地域形成の歴史的な背景等を踏まえて、①唐桑・鹿折・大島②気仙沼・新月③松岩・面瀬・階上④本吉-の4ブロックに分けて、統合や通学区再編を進めていくことにしていたのです・この4ブロックは、今回の4中学校と適合しています。
中学校は「社会性を身につけ、主体的な学びを一層広げる観点から早期の再編が必要」と判断。各学年でクラス替えができる2学級以上を確保することで、教科ごとの教員数も充実し、部活動の選択肢も広がる規模を目指しました。
組み合わせや統合先については、①学校間距離の比較②各校における最遠住居地までの距離の比較③再編予定時点で必要となる教室数と既存校舎の活用④生徒の安全面を重視して各種ハザード(津波浸水想定など)との位置関係ーを勘案しました。すでに全学年1クラスとなっている学校もあることから、急ぐために既存の校舎を活用することを大前提にした結果、鹿折、気仙沼、松岩、津谷の校舎を利用することにしました。
再編に伴って新たに生じる通学負担については、スクールバス等による通学支援を実施する方針が示されています。
なお、新たな中学区ごとに小学校とのグループを形成し、小・中学校間、小学校間の連携を強化していく考えです。
※再編の概要を下表にまとめました
【8月に答申、令和8年2月の議会へ提案か】
中間報告の説明会は保護者対象、地域対象に開かれています。今週は松岩、階上、面瀬、来週は鹿折、唐桑の住民説明会があり、全市民を対象にした説明会を6月5日(木)午後2時から気仙沼中央公民館で予定しています。
6月4日からはパブリックコメントもあります。また、1回の説明会だけでは足りないという地域向けに再び説明会を開催していくことにしています。
そして再編検討委員会で確認してから8月に答申し、9月には教育委員会として再編計画を正式決定するスケジュールです。その後、市民への説明会を経て、来年の2月定例議会に関係条例を提案する方針が示されています。議決後、再編準備会が立ち上げられ、令和9年度、10年度の再編に向けて校名をはじめとする協議、学校間交流が進められます。
【今川の5つの疑問】
旧志津川町時代から小・中学校の再編を取材し、議員となってからも活動のテーマの一つとしてきた私としては、いくつか気になる点があります。計画が決まる前に整理していきたいです。
※現時点での疑問点は次の通りです
1 | 教育委員会内に学校再編推進室を新設して、丁寧に進めようという姿勢は評価できるのですが、スケジュールが過密すぎる。教育委員会が再編計画を決定したら、地域の合意形成に時間をかけずに進められることが危惧される。だからこそ、現在行われている説明会、パブリックコメントに参加して、その意見を検討委員会の答申に反映してもらうことが大事です |
2 | 校名や校歌は準備会で検討するというけれど、これまで同様に変更は難しい可能性がある。なぜなら、再編してすぐに次の再編が待っているから。前計画でも似たような議論があったが、現実的な選択肢とプラスして将来ビジョンについてもっと踏み込んだ議論が必要です |
3 | どうしても「数合わせの統合」というイメージが強い。統合によるメリットも理解できるし、魅力化についても期待したいところだけど、統合しなくてもできる取り組みも多い。将来的でもいいから新校舎を整備するなど、デメリットを大きく上回るメリットが示されれば、納得感は高まるはずです。ちなみに、学校施設の整備計画は新たな再編計画ができてから策定することが説明されています |
4 | 松岩と面瀬と階上の統合では、統合によって5クラスになる学年もあり、仮設校舎(1棟6室で5年1.5億円)を建ててまで統合を急ぐことが必要なのか疑問が残る。そもそも、必要な教室数について検証する必要もある。また、これまでより規模の大きな学校同士の統合になるため、スクールバスの確保にも苦戦しそうだ。仮設校舎やスクールバスの費用を再編ではなく、教員の増員や30人学級実現にまわせば、子どもたちのためになるのではないか。令和9年度、10年度の再編を目指すよりも、現状改善に取り組んだうえで、新校舎建設と合わせた再編を待つ余裕は本当にないのでしょうか |
5 | 中学区単位で成り立っている地域活動等への影響が心配である。子どもたちの教育優先は理解できるが、地域があっての子どもたちでもある。旧市町村単位がもとになっている中学区もあり、まちづくり、福祉、防災・防犯、社会教育、青少年育成などの活動にも影響するため、再編と合わせて十分の議論が必要です |
【説明会では計画見直しを求める意見も】
いくつかの説明会に参加しましたが、少子化によって再編が必要なことに理解は示しつつも、組み合わせ、統合先、時期については異論も出ています。
先に統合した条南中と気仙沼中、大島中と鹿折中、小泉中と津谷中、小原木中と唐桑中について、市教委は「統合後の意見交換会で、保護者も子ども統合してよかったと言っいる。問題は特にない」と説明していますが、気仙沼中では保護者による車送迎が増えていることを課題としてあげる意見もありました。
よくある質問は、
【質問】統合よりも小中一貫校や義務教育学校で対応できないの?
⇒【回答】検討委員会でも話題になったが、いずれも1学年1クラスという問題解決にはつながらないため、再編を選択しました
【意見】スクールバスだと運動不足になるのが心配です
⇒【回答】スクールバスの乗降場所(例えば旧学校に集合したり、学校の近くで公民館や支所で降りて歩いたり)を工夫することも考えています。具体的には準備会で話し合います
【質問】古い方の学校に統合して大丈夫なの?
⇒【回答】すべての校舎は耐震チェック済みです
【質問】中間報告に反対したら学校配置案を見直してくれるの?
⇒【回答】(検討委員会で検討されることではあるが)様々な観点で導き出した案であり、住民の投票やアンケートの結果でやめることはない
【質問】学校名はどうなるの?
⇒【回答】ゼロから検討することになる。準備段階で市の基本的な考えを示したいが、再編検討委員会にも検討をお願いしたい
【質問】部活動は地域移行になるのでは?
⇒【回答】国は2031年を目標に地域移行を進めるという報道があったが、気仙沼は地域人材の確保が困難で休日の以降も完全ではない。平日については受け皿がなくて検討さえできていません
【質問】新しい校舎を建てないの?
⇒【回答】(小規模化による)現在の課題を早期に解決するため、既存の校舎活用を基本に考えました。次の段階では、学校の位置を含めた校舎の位置を検討することになる
残念なことに、説明会への出席者数が1桁という地区もあります。各地区の説明会に参加できなかった方のために、全市民を対象にした説明会を6月5日(木)午後2時から気仙沼中央公民館で予定しています。無理に意見を言わなくてもいいので、再編の考え方や理由を知るためにも、多くの方に足を運んでほしいです。
※下表は各中学校の生徒の推移予測、再編した場合の予測データです
※教員の配置状況、部活動の状況です