新市役所はどこに?建設地決定を前に徹底解説【気仙沼市】

気仙沼市の新庁舎建設地が間もなく決まります。有識者会議の約1年に及んだ議論により、基本構想の方向性がまとまり、12月下旬には市に最終案が提言される予定です。候補地の評価では、旧市立病院跡地が優位となっていますが、その理由などを詳しく解説します。

市の本庁舎は昭和35年の建設で、老朽化と耐震基準不足の問題から建て替えが必要となっています。これまでは震災復興を優先していましたが、市町合併の特例による財政措置が受けられるうちに新庁舎を建設することにしました。

【建設地は現在地か旧市立病院跡地か】

財源の問題はクリアできたものの、建設地の選定が難題となりました。市は基本構想の中で候補地を決めるため、市民代表や大学教授らによる有識者会議を昨年11月に設置。基本理念と基本方針、規模、機能性能とともに検討してきました。なお、会議の内容は市のホームページで見ることができます。昨年7月のブログに旧病院跡地の活用について、2月のブログに有識者会議の前半の内容を紹介しています。

新庁舎の機能・性能、建設地について意見を聞くため、今年8月には総合計画策定に関わった市民らとの意見交換会、翌9月には市民意見の募集を行いました。意見交換会の出席者や傍聴者を対象としたアンケート、全市民を対象にした意見募集の結果も公開されていますが、「市役所は市の顏であり、駐車場が広く取れて商店街とも連携できる利便性のよい位置に建設してほしいものの、建設費の抑制も大事である」という意見がやはり多かったです。

有識者会議では、建設候補地の候補として当初は①現在地②旧市立病院跡地③反松公園④気仙沼公園⑤南運動広場予定地⑥旧気仙沼西高校⑦気仙沼警察署跡地―の7カ所が挙げられていました。条南中学校は気仙沼中への統合に合意が得られてなく、鶴巻と岩月の市営住宅団地も集約を進めるのに時間がかかることなどから建設可能地から外されました。既存施設を活用した分庁舎化は、「市のサイズからすると集中した方がいい」と検討の対象外となっています。

候補地の候補となった7カ所は、人口重心5㎞以内、敷地面積1ha以上、幹線道路沿いなどの条件と照らし、①現在地②旧市立病院跡地③気仙沼公園―に絞り込み、それぞれ評価することを検討しました。旧気仙沼西高校は敷地が8.5haと最も広いものの、用途地域からわずかに外れていることなどを理由に評価の対象には残れませんでした。

【項目ごとの評価では病院跡地が優勢も、有識者会議で絞り込みできず】

そして今年11月の有識者会議で、3カ所の候補地の評価について議論されました。代替公園を近隣に確保することが難しい気仙沼公園が最終候補から外されたため、現在地と旧市立病院跡地の一騎打ちです。評価は12項目で〇△を付けるシンプルなものですが、事務局案では市立病院が「〇が9つと△が3つ」、現在地は「〇が3つに△8つ、さらに駐車場確保でが1つ」という内容でした。詳しくは市ホームページの候補地の比較評価一覧表(案)を見てほしいのですが、概要は下表(市議会新庁舎建設調査特別委員会資料)にあります。

有識者会議では、いずれも〇の評価が示された「市全体のまちづくりへの貢献」で議論が白熱しました。「移転すれば現在地周辺のまちづくりに影響する」という心配に対し、「移転先で新たなにぎわいが生まれる」という考えもあり、この項目の評価ができませんでした。12月7日に再度議論する余地を残しましたが、評価できない項目があれば候補地を1つに絞って提言することもできないという結論になりそうです。

年内に基本構想案が提出されますが、候補地が1つに絞られない可能性が高まったため、菅原市長は「市としても並行して検討していく」と説明しています。基本構想が確定する来年2月までに、市の方針が示されるものと思われます。

【仮設庁舎リースに30億円。旧気仙沼西高校活用案も】

ここからは建設地選定に対する私なりの分析です。

11月の有識者会議では、候補地、建設手法ごとの総事業費の概算が初めて示されました。現在地では建て替え期間に仮設庁舎が必要となるため、旧市立病院跡地より事業費が20億~30億円ほど高くなるだけでなく、仮設庁舎で業務を行う期間が4年となる見通しも分かりました。

さまざまなパターンがあるので、詳しくは市ホームページの概算事業費をご参照ください。現実的な例を比較すると、現在地で建て替える場合は庁舎の解体と建設費で82.6億円、造成に2.5億円のほかに、仮設庁舎と引越費用として旧気仙沼西高校を活用すれば12.7億円、プレハブをリースすれば30.3億円が追加されます。旧病院の解体と跡地整備(簡単な野外施設)にも17.9億円が必要で、西高を仮設に活用しても総事業費は115.7億円になります。

一方、旧市立病院は仮設庁舎が必要ないので、すべて解体して新庁舎を建てるパターンでも、現庁舎の解体等も含めた総事業費は98.2億円です。旧病院の管理棟などを活用すれば86.6億円まで抑えられます。しかも、市役所移転のために旧病院を解体すれば、その費用にも合併特例の財政支援が受けられます。

市の資料は現在地ですべて新築して仮設庁舎をプレハブリースにする例が含まれていませんが、総事業費は現在地で106億~123.6億円(実質的な一般財源負担は66.1億~86.3億円)、旧病院跡地だと86.6億~98.2億円(同40.3億~50.5億円)と示されました。市の実質的な負担に大きな開きがあります。財源の詳細は市ホームページにある建設候補地の評価資料(40ページ)をご覧ください。

お得な合併特例債(建設事業費の95%まで借り入れ可能で、返済額の70%を交付税措置)の活用枠は57億円で、毎年1億円積み立ては2025年まで12.5億円となる見込みです。これで計69.5億円分は確保でき、残りは上限のない合併推進債(対象事業費の90%まで借り入れ可能で、返済額の40%を交付税措置)を活用する考えです。

【解体・新築のためら仮設庁舎で4年。その影響は】

最後にもう一つ、問題提起します。それは仮設庁舎を使用する場合の期間です。

市が示したスケジュールによると、現在地で建て替える場合、現庁舎解体と新築工事に合わせて4年ほどかかる見込みです。その間、仮設庁舎で業務を行うことになりますが、4年もいると周辺に飲食店や職員用駐車場(現在地周辺では390台分利用中)が必要になります。旧気仙沼西高校なら公共交通を見直すことになりますし、改修するならそのまま利用した方がいいという意見も出てくるかもしれません。

プレハブをリースするとなると、その建設地を探さなければなりません。気仙沼公園がその候補と考えられますが、現実的に可能かどうかは整理されていません。統合した学校などを活用した仮設分庁舎方式も選択肢の一つですが、4年もの期間となると市民の負担となりますし、そもそも仮設庁舎のリースに30億円も投じることに市民の理解を得るのは難しいです。

旧気仙沼西高校を改修して仮庁舎とした後、有効に活用できるアイデアがあればいいのですが…。ちなみに、市の資料から私なりに試算すると、旧気仙沼西高校を庁舎とする場合、改修と引越費用で12億円のほか、旧市立病院と現庁舎(ワンテン庁舎を除く)の解体と跡地整備に24.5億円、合わせて36.5億円で済むと考えられます。


新庁舎の供用開始は2027~2028年の見込みです。

概算事業費とともに事業手法が示されたことで、現実的な議論に進むことが期待されます。しかし、有識者会議は次回で基本構想案をまとめる予定です。

このタイミングで状況をまとめて公開したのは、現実的な課題をもとにした市民の議論が必要だと思ったからです。建設地が決まった後に、こんな方法があったのではないか、想定より総事業費が増えてしまったということがないように、皆さんのご意見を歓迎します。

※下表はパターンごとの事業スケジュールです。

 

 

 

 

 

1 Comment

  1. 魚町1区元住民Mr.Peki-chan

    現庁舎は周辺道路が混み合っている現状を考えればリプレイスは考えられないです。ワンテンが支所として残れば周辺住民は困らないだろうし。庁舎を取り壊してBRT新駅と街なかバスターミナルを再検討してもいただきたい。旧病院や気仙沼公園は坂の上で市街地から歩いて行くのが厳しいことや道路も狭隘なことがネック。学校統廃合が進んでいれば条南中や松小・松中あたりをベターな選択肢に浮上させられたかとも思われます。東日本大震災直後の混乱を思うと津波が来て通信手段が途絶えても消防・警察・県合庁・市立病院と歩いて行き来しながら連携を取れるところに市役所が立地していて欲しい気がします。でも現実的選択肢がリプレイスか旧病院活用か気仙沼公園かならば自ずと仮設も含めて新たな箱モノを作らない旧病院活用しかないかと思われます。

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