神山川桜並木の結末【報告と御礼】

遅くなりましたが、神山川桜並木と堤防計画の結末を報告します。前回の計画とおり17本程度の桜を保存し、堤防工事に着手することが決定しました。100点満点の結果というわけではありませんが、「これが落としどころだ」という地元住民の判断が尊重されました。署名運動にご協力いただいた皆さん、ありがとうございました。

宮城県気仙沼土木事務所による説明会が7月28日、気仙沼中央公民館条南分館で開かれました。参加した市民は60人ほどで、前回に比べると地元住民の割合が多かったです。

県からは、前回の意見に対する検討結果が説明されました。※前回の説明会の様子については6月29日のブログをご覧ください。

桜並木をすべて保存するために堤防の位地と構造について4案を検討した結果、「安全性、経済性、社会性を総合的に判断し、いずれも採用できない」という結論でした。

【再検討4案も「採用できない」】

今回は新たに、樹木に影響する範囲も示されました。桜の根を傷つけないでための範囲です。

検討した案は、①堤防の位置を川側に変更する②堤防の位置を市道側に変更する③堤防の構造を擁壁タイプに変更して川側に整備する④擁壁を市道側に整備する―でした。いずれも無茶な内容ですので、工期は長くなるし、工事費も高くなってしまいます。

【反対意見なく計画合意】

説明の後の意見交換では、「桜を全部残せという意見は、地元を置き去りにしている。住民は不安になっている。折り合いをつけないといけない」「全部伐採する計画が17本残せることになってよかった。全部残せと住民は思っていない。一番大切なのは人の命」「神山川橋に近い桜は老木で、太い枝が落ちることもあり、残せるような状態ではない。県の方針は仕方がない」と前回示された計画を支持する意見が相次ぎました。

県からは移植を再検討する考えも示されましたが、寿命に近い木が多く、樹木医の調査では「枯れるリスクが低くて移植が可能そうなのは2、3本程度」だそうです。

前回は反対していた地区外の市民も「奇跡の桜だから、挿し木でもいいから語り継げるようにしてほしい」と地元意見を尊重しました。進行が早く、手を上げる機会を逃してしまった人もいたようですが、反対意見がないまま工事に着手することになりました。

桜の伐採は秋ごろに行い、堤防工事には1年半ほどかかるそうです。

【粘り強い構造への疑問を教訓に】

個人的には、上流域での粘り強い構造は過剰だし、レベル1津波と洪水対策が混同したまま計画が進んでいることは疑問が残ったままです。例えば、県が示した検討案の断面図は、盛り土幅が大きい区間で、小幅な区間なら桜に影響しない工法は他にもあります。粘り強い構造にこだわらなければ、検討案4の擁壁に基礎の鋼管まで打つ必要はなく、もっとコンパクトにできるはずです。

しかし、住民に対してレベル1とかレベル2津波について詳しく理解してもらうことは難しく、全国で大雨被害が発生する中、これ以上、計画を先延ばしできる状況ではありませんでした。もっと最初から専門家も入れて議論することが必要だったのだと思います。

桜並木の保存範囲について異論はくすぶっていますが、一度決まって工事発注までした堤防計画を変更し、工事区間を両岸とも約190m短縮でき、桜は17本程度残ることになりました。約6億円の工事費を2億円ほど減らせるという副産物もありました。

実は署名活動を始める前から、堤防整備を望む意見が強くあり、署名の内容は「安全を確保したうえでの見直し」にしました。そうした状況を考えると、17本程度とはいえ、市民の熱意がなければ桜並木は守れませんでした。計画変更に真摯に向き合ってくれた県の担当者にも感謝したいです。

最後に、神山川の堤防計画からの教訓を次の通りまとめました。

・住民に計画案を示す前に、専門家との十分な話し合いが必要だった

・粘り強い構造は海岸部を想定していたのに、河川の上流部まで一律の構造になってしまった

・復興期における「市民の癒しの場」をなくす影響を行政サイドも考慮すべきだった

・桜並木の区間だけの説明にとどまり、大川も含めた全体像について説明がなかった

・SNSなどによって根拠のない批判があり、市民間に溝を残してしまった

・桜の全部保存と一部保存で意見が対立してしまったが、少しでも保存を増やすための議論にならなかった

 

 

2 Comments

  1. 山田

    住友林業が、津波で枯れそうな樹木から苗木を増やすことを行なっていると聞きました。工事費が少なく済んだのなら、それで依頼できるのではないでしょうか。

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    1. 今川 悟 (Post author)

      陸前高田市の奇跡の一本松で実績がある会社ですね。神山川の場合は枯れていない桜ですので、苗木を増やすことは難しくないようです。難しいのは移植で、樹齢が高くてリスクがあります。

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