JR提案はバス専用道9割【気仙沼線】

津波で被災したJR気仙沼線は、鉄路での復旧が困難になりました。JR東日本は、線路跡を舗装してバスを走らせるBRT(バス高速輸送システム)を将来的にも継続させることを提案しました。沿線自治体首長会議で配布された資料には、バス専用道を将来的に9割まで拡大することなどが説明されています。

JR気仙沼線は、気仙沼-柳津間の55.3㎞で列車の運行ができず、震災後はBRTによって地域の足を確保してきました。BRTは仮復旧であり、鉄路が本復旧だという位置づけでしたが、ルート移設などに伴う復旧費用の増加が課題となっていました。JRは、100年に1度の頻度で発生するレベル1津波から線路が守られることを運行再開の条件とし、海沿いの一部ルートを内陸へ移すことを提案していたのです。

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ルート移設を含めた復旧費用は700億円。このうち震災前に戻す費用程度の300億円はJRが負担するものの、残る400億円は国や沿線自体へ負担を求めていました。

■トップレベルの会議で結論急ぐ

これまでは事務局レベルで話し合いを続けてきましたが、結論を急ぐ必要があり、今年6月5日に沿線自治体の首長、国土交通副大臣、JR東日本副社長、国交省鉄道局長によるトップレベルの会議を開催。国が費用負担について、「経営が黒字であるJR東日本が自らの責任で復旧することになる。復興予算で支援することは難しい」と否定したことで、次の会議でJRが復旧方法を提案することになりました。

■鉄道復旧は困難。JRはBRT継続を提案

そして7月24日の会議で、JRの考え方が示されました。、震災前から利用者が減少しており、鉄路を復旧しても持続的に公共交通としての役割を果たせなくなることから、BRTを充実させたうえで継続することを提案したのです。

国交省のホームページで公表された資料のポイントは次の点です。

・震災前の利用者は鉄道の特性を十分発揮できる水準ではない。

・BRTは津波避難や柔軟な運行などのメリットがあり、持続可能な交通手段である。

・BRTなら三陸道を利用した高速バスと連携しやすい。

・BRTの新駅設置や専用道拡大によって地域交通の活性化に貢献できる。

・JR東日本グループ全体で産業や観光の振興を応援する。

■震災前から利用者減。鉄道の特性発揮できず

「鉄道の特性を十分発揮できない」とした理由は、平成元年に1425人だった柳津-気仙沼間の1日平均利用者数が震災直前には898人まで減少していたことが挙げられました。鉄道の特性は大量輸送であり、1000人以下の赤字ローカル線は、廃止対象になってもおかしくありません。住まいの高台移転によって駅周辺の住民が減少し、復旧しても震災前の利用者さえ確保できない恐れもあるのです。

JRはBRTを提案するにあたり、そのメリットを最大限PRしました。線路後の41%をバス専用道として整備したことで、当初問題となったダイヤの遅れが改善され、今では終着駅における遅れが5分以内の便は90%以上になったそうです。

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■専用道を9割まで拡大。震災前と同じ所要時間

鉄道で柳津-気仙沼は90分(各駅停車)でしたが、いまは106分です。将来的には、大谷の一部を除いた90%を専用道にすることで、所要時間は鉄道と同じ90分にする考えも示されました。鉄道に比べてBRTは運行本数が多いだけでなく、最終便が遅くなり、新駅の設置、一般道を利用したルートの柔軟な調整にも対応でき、「地域の実情に合致した交通手段」と利便性の高さをアピールしています。

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新聞報道によると、登米市と南三陸町の首長はこの提案に理解を示しましたが、気仙沼市長だけは「気仙沼線が果たしてきた仙台へのアクセスが確保されていない」「住民の意見集約には進めない」などと慎重なコメントを残しました。今後、観光振興や地域振興とともにJRと話し合いを重ねていく見込みです。

地域内交通としてBRTは魅力的ですが、やはり仙台への快速がないと気仙沼での生活は不便です。三陸道はここ数年で気仙沼まで延伸してきます。三陸道の高速バスを利用した場合、気仙沼線でBRTと列車を乗り継いだ場合など、さまざまな観点でより利便性の高い公共交通を模索していかなければなりません。

また、BRTを継続する場合、その魅力をまちづくりに最大限生かす工夫が求められます。結論は先送りするにしても、さまざまな検討は早くしなければなりません。

■大船渡線は専用道51%が限界?

なお、大船渡線の気仙沼-盛(43.7㎞)もBRTの継続が提案されました。ただ、バス専用道の拡大については異なります。大船渡線は現在37%の線路を専用道に整備しましたが、将来的にも51%どまりという提案でした。このため、所要時間を鉄道並みの65分とすることができず、所要時間は「74分以下」と示しています。

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資料では、鹿折唐桑~上鹿折までは一般道を利用した枝線とし、国道45号を通るルートもそのままにする内容となっています。つまり、鹿折唐桑~陸前高田までの線路跡は専用道にしない方針となっています。線路跡の活用を含めた議論が求められます。

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気仙沼線、大船渡線ともに次の会議で、JRの提案に対する自治体側の考えが示される見通しです。

4 Comments

  1. 高井耀太

     JR気仙沼線の本復旧について、関係各位の思いや現場の事情もよく解らないうえで御伺いします。
     この度の復旧案で「ガイドウェイバス」は、検討されたのでしょうか?ガイドウェイバスはバス車両を使用した軌道系交通システムで、国内では名古屋に実績があります。(軌道系交通機関ですので、地図に載ります)
     海外の事例では専用路を90㌔/時程度で運行していますので、これならば、バスが持つ機動性を活かし、ルート移設が必要な区間は一般路を走行しつつ、専用路では鉄路と同等の運行サービスも可能です。
     JRにも過重な負担をかけずに、鉄路の復活を望む地元の声にもある程度応えられると思います。
     鉄路を廃止してバスに切替えた場合で、乗客が増えた事例は記憶に有りませんので、今後とも慎重な検討をお願い致します。

    Reply
    1. 今川 悟 (Post author)

      ガイドウェイバスは、軌道法のからみで思ったよりもスピードが出せないという課題があり、あまり検討されていなかったと思います。確認してみます。

      Reply
      1. 高井耀太

         お手間をかけさせしまい、申し訳ございません。ガイドウェイバスには、軌道法や無軌条電車運転規則が適用されることは、その内容も含めてそれなりに理解しております。 コメントではイメージしている形を具体的にお示しできないのは残念でありますが、宇都宮LRTの例に倣い法令上並びに安全設備上、快速運行や制限速度をどう設定できるのかまで踏み込んでご検討いただければと考えております。
         時間も限られた中で詳細に検討することは難しいのは承知しておりますが、地域の軸となる公共交通の再生を願えばこその思いをどうかご理解下さい。

        Reply
        1. 今川 悟 (Post author)

          BRTの可能性を引き出すということですね。宇都宮LRTのことを調べてみました。まずはどのような地域交通が必要なのかを整理し、有識者のアドバイスも頂きたいところです。市側と交渉してみます。

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