初めての視察

初めての視察が8月5日から7日まで行われました。気仙沼市議会産業経済常任委員会の公務として、千葉、神奈川、静岡を訪ねて来ました。正直、記者時代は観光気分の視察かと思い込んでいましたが、意外にハードスケジュールで驚きました。
常任委員会の宿泊付き視察は年1回だけ行われます。交通費、宿泊費などは市が負担します(今回は事務局を含めて7人で50万円)。行き先は、委員会が担当する部門で先進的な取り組みをしている自治体などです。
今回は、気仙沼市が現在抱えているビッグプロジェクトの参考にするため、千葉県富津市の造船所、神奈川県三浦市のシティセールス、静岡県沼津市の高度衛生管理魚市場、富士宮市の市営巡回バスを視察しました。移動は電車、バス、船の乗り継ぎのため、分刻みです。視察先に到着したら、すぐに担当者からの説明が始まるため、休めるのは午後6時にホテル入りしてからでした。観光どころか、トイレに行く暇もなく、家族へのお土産も帰りの新幹線のホームでやっと買えたくらいです。先輩議員に聞くと、視察はけっこうハードスケジュールなのだそうです。
視察の成果は十分にあったと思います。今回は議会事務局以外に、市の担当職員がそれぞれの視察先で合流して一緒に説明を受けていたので、あえて事例を一般質問で報告する意味があるかどうかは分かりませんが、やはり百聞は一見に如かずでした。
造船所富津市の造船所は、気仙沼市内で計画しているシップリフト方式(船をエレベーターのように海へ上げ下げする仕組み)を国内で初めて導入しました。施設整備から22年が経過しており、維持管理の課題も分かりました。船を縦横に動かすためのレールがずれると大変なので、基礎杭をしっかり打つ必要があること、リフトアップのためのワイヤーの更新(5年ごと)に費用がかかり、19年目に必要となった海底の浚渫に6200万円も要したことなどを教えてもらいました。シップリフト方式によって、10人必要だった上下架の人員が4人でよくなり、半日かかっていた作業が1時間に短縮されるというメリットも現場を見ることで実感できました。
課題は地盤沈下によってレールがずれると、船の移動が困難になり、水平が保てなくなると新船建造に影響するということです。気仙沼の場合は、海岸線に海抜7.2mの防潮堤を整備し、船の出入り口に大型の陸閘(ゲート)が必要になります。巨大構造物によって不等沈下が発生する恐れがあり、十分な対策が必要だということが分かりました。
三浦市三浦市では、市長の肝いりで市役所に新設された「営業開発課」の活躍ぶりに驚きました。市外から人を呼び込むことをミッションに、市職員が「営業マン」として奮闘しています。観光課とは別に、テレビのロケ地、東京へのアンテナショップ、教育旅行誘致に取り組んでいます。京浜急行電鉄とタイアップした「みさきまぐろきっぷ」は、まぐろ丼を中心にした食事券、乗車券、入浴券などをセットにして3060円で販売し、5年目の昨年はなんと6万枚以上を売ったそうです。市の総合計画で地域経済の衰退や定住意識の低下を認め、身の丈に合った財政運営に切り替え、「アレもコレも」をやめました。市役所の年功序列人事を見直し、お役所特有の「できない理由探し」「前例頼り」からの脱却を目指したことで、職員のやる気が伸ばされたのだと感じました。
沼津魚市場沼津市の魚市場は、驚くことに民設民営でした。産地市場と消費市場を合わせた魚市場のため、年間水揚げ128億円のうち100億円は「陸送品」(ほかの産地から運んだもの)で、産地市場である気仙沼とは事情が異なります。ここで視察したのは、高度な衛生管理のための閉鎖型施設です。出入り口を減らして部外者や鳥などの侵入を防いだ半面、市場で働く人たちには不便になる問題があります。
沼津では場内でのフォークリフト使用を制限し、ほとんどが台車で魚を出口まで搬出していました。そのために、仲買人のための一時置き場のスペースを個別に割り当てていました。
市場だけでなく、観光施設を含めた配置計画が作られていました。水産と観光のタイアップが成功し、魚市場の周りには水産物を売りにした飲食店がたくさんありました。また、施設配置には「回廊性」を重視しています。観光客が歩いて楽しめるように工夫しており、気仙沼でも必要な視点だと思いました。周辺には海抜5.4mの防潮堤があり、完成のイメージを持つこともできました。
富士宮市最後の富士宮市では、民間のバス路線廃止と赤字補助金増加に伴い、市が巡回型バスと乗り合いタクシーを運営しています。バス停のオーナーを募って協力金を集めるアイデアなどで、バス会社に補助金を出すよりも負担を少なくし、さらに市民に喜ばれる仕組みをつくりました。ここでも職員の熱意が光っていました。いろいろな成功要因はありますが、私が注目したのは平成17年の「財政危機宣言」です。職員の給料カット、事業の整理が求められる中、コスト意識の非常に高い仕組みが誕生したのです。住民に好評ですが、内容は路線バスの廃止によって失われた機能の補填であり、担当者は「日本一不便なデマンド交通」と公言しています。それが評価されているのは、やはりアイデアです。乗り合いタクシーは対象を絞り込んだり、完全予約制にして空車を走らせない仕組みを考えたりしていました。
気仙沼市でも震災によって休止していた巡回バスが復活する見込みです。震災前に戻すのではなく、新たなアイデアを加えることが大切です。前例にとらわれないで職員がアイデアを出し合えるように、環境づくりをしていくのが議会の仕事だと感じました。

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