新月ダム物語のその後。計画中止から19年

宮城県が気仙沼市で計画した新月ダムの建設中止から19年。ダムに代わる水源開発がもうすぐ終わろうとする一方で、人口減少などにより水需要は減少し、さらに配水管の老朽化が進み、1983年から据え置いてきた水道料金の値上げが検討されています。気仙沼市の歴史に刻まれた新月ダム計画のその後をまとめました。

【新月ダム計画の総事業費340億円】

新月ダム建設は、1973年に宮城県が大川総合開発事業の一環として計画を策定。洪水対策としての治水、そして水需要の増加による利水を目的にした多目的ダムと、その周辺の整備事業を合わせて総事業費は105億円でしたが、最終的には340億円に膨らみました。

総貯水量は1550万㎥、堤高66mで、ダム湖周辺に96haの広域公園なども計画していました。当時の建設省から補助事業として採択されていましたが、新月渓谷を中心とした広大な土地がダムの中に沈むだけでなく、海への影響も心配されたことから反対運動が強まり、1997年に計画の休止、2000年に中止が決定しました。

国道284号のバイパス整備、総合体育館建設など、ダム絡みだった事業の葛藤も中止に至るまでたくさんありましたが、詳しくは三陸新報元記者である小野寺教郎さんの著書「もう一つの新月ダム」に記されています。

※下の写真は1988年5月15日の広報「けせんぬま」の記事にあった新月ダムの完成予想図です。

【新月浄水場はダム前提に整備。暫定水利権は期限付き】

気仙沼市の水道事業は、1970年に第4次拡張事業を行った後は1日最大給水量が4万2500㎥になり、金成沢川、八瀬川、松川合流後の大川の舘山取水場で認められている安定水利権1日2万5千㎥だけでは不足していました。そこで新月ダム完成を見越して、ダム水からの安定水利権1日2万㎥を水源とする新月浄水場を1980年に先行完成させ、ダム完成までは暫定豊水水利権として1日最大1万1000㎥まで新月取水口から取水することが認められました。

新月ダム計画の中止により、この暫定水利権は消滅するはずでしたが、ダムに代わる水源開発を担保に継続が認められています。水源開発の遅れにより宮城県に延長をお願いし、現在では水源開発が終わる2023年3月末が期限となっています。暫定水利権が無くなると、新月取水口と新月ポンプ場は不要になるため、施設の撤去を予定しています。

【代替水源は松川の地下水と農業用水】

新月ダム計画の中止による代替水源は、松川の「地下水」から1日最大6070㎥、7~9月の農業用水の余剰分を舘山で取水する「期別取水」として1日最大3100㎥です。宮城県が設置した大川治水利水検討委員会で洪水対策を含めた代替策を協議しました。

課題は浄水場でした。1930年に開設した舘山浄水場の老朽化により、主力を新月浄水場へ移すことにしましたが、新月取水口の暫定水利権が無くなれば、舘山で取水した原水を新月浄水場まで導水しなければなりません。その標高差は約50m。強力なポンプ場が必要になります。松川の地下水は舘山に導水されます。

【新たな水源開発に48億円】

気仙沼市が2006年度から取り組んでいる新たな水源開発には計48億円かかる見込みです。その内訳は地下水施設で約5億6千万円、舘山から新月への導水ポンプ場に約28億円、同じく導水管関係で約9億5千万円など。そのほとんどを借金で賄っているため、水道事業の経営を厳しくしています。

ただし、新月ダムが建設された場合でも気仙沼市は総事業費の13.2%の44億8800万円を水道事業で負担する協定を宮城県と締結しており、新たな水源開発にかかった費用と同規模の負担は避けられませんでした。

2022年度内に水源開発事業が完了し、翌年度から稼働する予定です。新月浄水場は舘山からの導水にコストがかかる半面、高いところから配水することによって増圧ポンプ施設の統廃合が可能になるなどのメリットもあります。

一方で、新月浄水場はダム水を前提とした処理機能のため、表流水で不純物が多い舘山からの原水を汚泥処理するには機械処理施設が必要となり、水源開発施設整備後に約8億円の施設整備費が見込まれています。このほか、大島大橋を利用して大島へ配水するための施設整備も計画しています。

※下図は2019年1月11日の議員全体説明会資料です。新月ダムが完成した場合と、代替水源開発の場合の水供給の違いが分かります

【減少が続く水需要】

ここで検証しておきたいのが水需要です。

新月ダム建設が計画された1970年代は、地域の発展が継続していくものと信じられていましたが、実際には1980年代から人口減少に移行してしまいました。

ダムの当初計画では1990年に給水人口12万人、計画給水量7万2000㎥(1日最大)でしたが、旧気仙沼市の現在の人口は4万7000人。復興途中とはいえ、1日最大給水量も3万㎥程度で、このままの推移だと地下水は普段は利用しなくていい予備水源となることも考えられるのです。新月ダムだけでなく、水源開発すらも過剰な施設投資になるほど気仙沼市の人口減少は深刻です。

【水道料金の値上げは2021年4月からの予定】

水源開発に伴う借金の返済だけでなく、水需要の減少に伴う売り上げ減、さらに老朽化した配水管などの施設更新により、水道事業の経営は厳しく、2021年4月からの水道料金値上げを検討しています。

そのために2017年には日本水道協会に委託して水道事業の経営診断を行い、今年3月には経営戦略をまとめました。経営戦略では2028年度までの収支見通しをもとに、値上げ率を①13.6%②23.5%③27.6%の3パターンで試算しました。

経営状況を直視すると値上げは避けられませんが、震災によって議論は先送りされ、復興期間を避けて2021年4月からの改定を予定しています。今後、ガス水道部内の経営改善検討チームが中心となり、経営改善策を盛り込んだうえでの収支推計を行い、2020年7月まで複数の改定パターンを作成します。その後、8月には内部決定し、9月に市議会への説明、10月に運営審議会への諮問・答申、市議会12月定例会での条例改正提案を予定しています。

ちなみ、気仙沼市は給水原価が類似団体の全国平均より1.4倍なのに、水道料金は県内13市で最も安く抑えられています。その経緯を踏まえ、市民生活や産業への影響を緩和するため、段階的な値上げも含めて検討していきます。

※右表は気仙沼市が2016年に調べた県内13市の水道料金(一般的な家庭。口径13㎜で月20㎥使用)です。

 

【先人が守った新月の里山のこれから】

宮城県と気仙沼市は、新月ダム建設と合わせた地域振興策を「新月地区新しい郷づくり計画」にまとめていました。ダム計画中止とともに消えてしまいましたが、168戸の住宅地にブランドショップやカフェレストランもある「エコビレッジ」、東京ドーム20個分に相当する96haもの「広域公園」、野球場と陸上競技場にテニスコートや体育館もある「運動公園」、遊具や水上ステージのある「親水公園」、そしてショッピングセンター、観光センター、キャンプ場、アスレチックコース、花木園など、夢のような計画でした。

しかし、四半世紀にわたる反対運動が行われた結果、時代のタイミングもあって新月の自然、人々の暮らしを守ることを決めました。漁師が山に植樹する「森は海の恋人運動」もダム計画の反対運動の中から生まれ、今では山川海のつながりはとても大切なものであるという認識が広まっています。

新月ダム計画が公表されてから約50年後に、新たな水源開発施設が稼働します。ようやく、新月ダム計画に本当の意味で終止符が打たれるのです。先人が守った新月の自然に目に向け、気仙沼市のアイデンティを確認したいです。

なお、新月ダムを巡る歴史を知ると、震災後の防潮堤議論と類似する点が多いことを痛感しました。行政側は担当者が入れ替わり、ダムの資料はほとんど保存されていませんでした。防潮堤の資料を保存し、議論や経過を記録して後世に語り継いでくことが大切であることを知ったのです。

※下図は1989年9月1日の広報けせんぬまです。ダム湖周辺の振興策を説明しています

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