土砂災害警戒区域と津波被災者の住宅再建【災害リスクと向き合う暮らしとは】

津波で被災した人たちの住宅再建が進む気仙沼市で、移転先が土砂災害警戒区域となる問題が浮上しています。この問題を突き詰めていくと、地震、津波、土砂災害、洪水などの自然災害に対して、正しく理解して向き合うことが必要になっていると痛感します。きょうは気仙沼市で起きている問題と自然災害を取り巻く制度について考えてみました。

3月15日の三陸新報が「移転先が土砂警戒区域?」という見出しの記事を掲載しました。気仙沼市が移転先に選んだ鹿折北の防災集団移転団地で、一部のエリアが土砂災害警戒区域に指定される可能性があることが分かったという記事でした。津波被害を受けて移転してきた人たちが、今度は「山津波」を心配しなければならないというショッキングな内容です。

【土砂災害警戒区域とは】

どうして、こんな事態が起きてしまったのでしょう?

まずは制度について説明します。

土砂災害警戒区域は、1999年の広島豪雨災害を契機に成立した土砂災害防止法にもとづいて指定されています。がけ崩れ、土石流、地滑りから人命を守るため、土砂災害のおそれのある区域を対象とし、警戒区域(イエローゾーン)と特別警戒区域(レッドゾーン)を都道府県が指定し、市町村が周知しなければなりません。土砂災害が相次ぐ中、その指定が急がれています。

レッドゾーンでは住宅の建築が規制され、安全対策が確認されないと建築許可が下りません。一方、イエローゾーンは建築規制がなく、周知による警戒と避難などのソフト対策を推進しています。

※区域の内容と指定条件は下記の通りです。


【市内に危険箇所は490カ所。指定はまだ半分】

気仙沼市内では、国が公表した土砂災害危険箇所が490カ所(宮城県防砂総合情報システムで確認できます。GoogleChromeでの起動をお勧めします)あり、このうち256カ所を2017年度まで指定を終えました。すべての指定が完了するのは2022年度の予定です。ここで問題となるのは、土砂災害危険箇所として示された段階ではその範囲に入っていなくても、警戒区域として指定する段階で範囲に含まれるケースがあることです。

危険箇所は2万5000分の1の地図で示されているのに対し、警戒区域は2500分の1の地図をもとに現地調査をしたうえで指定しているためです。鹿折北の防災集団移転団地もこの理由でした。

※下表は気仙沼市内の土砂災害危険箇所と指定の状況です


 

【集団移転団地は事前チェックで大丈夫だったが】

気仙沼市が整備した防災集団移転団地は、すべて危険箇所を外れていることを確認して計画しました。しかし、警戒区域の指定に向けた県の基礎調査で、鹿折北は10戸ほどが土石流のイエローゾーンに入る結果が出たのです。この調査は団地が完成した後に行われ、すでに住宅を建ち並んでおり、住民を不安にさせてしまいました。

事前チェックでは、団地の手前まで危険箇所だということが分かっていましたが、そのことを移転してくる人たちに説明していませんでしたので、まさに「寝耳に水」の状態です。

※下図は土砂災害危険箇所です。「8-11-044」にある水色の部分が危険箇所で、鹿折北の防災集団移転団地はその先(鹿折川側)にあります。

【再調査するのに住民へ知らせてしまうミス】

この話はここで終わりません。実は、防災集団移転団地の造成によってかさ上げられていることが反映されていないことを気仙沼市から指摘され、県は再調査してから結果を住民に示す予定でしたが、県の担当者間の連絡不足によってそのまま説明会が行われてしまったのです。

再調査によってイエローゾーンから外れるかどうかは分かりませんが、再調査を報告する説明会では「安全だという前提で移転してきた。分かっていたら選ばなかった」「再調査で大丈夫だとなっても不安はぬぐえない」「団地をつくったこと自体がミスではないか」「一緒に暮らすことを楽しみにしていた子どもたちが、怖くて帰ってこないと言い出している」と住民は不満でいっぱいでした。

再調査については、2019~2020年度に地形図を作成し、2020年度に現地を調査したあと、2021年度に説明会を開いてから指定手続きに入ることが説明されました。市はその結果を待って対応策を示すことで理解を求めましたが、市議会東日本大震災震災調査特別委員会では基本的に避難対策などのソフト面となる考えが示されています。

このままで住民は不安なままなので、県は再調査を急ぐことを検討しています。

なお、土石流のイエローゾーンは「土石流発生のおそれのある渓流の扇頂部から下流で勾配が2度以上の区域」となっています。市は団地造成に伴う盛土かさ上げによる地形の変化を反映させるように求めています。

【イエローゾーンに指定済みの浪板1区も再調査】

鹿折北の問題がクローズアップされましたが、同じく鹿折地区にある浪板1区の防災集団移転団地の一部は、2018年3月に土石流のイエローゾーンに指定されました。

指定済みではありますが、団地造成が図面に反映されていなかったため、鹿折北とともに再調査の対象としました。

※下図はこの地区のイエローゾーンを指定した図書です


【災害公営住宅では入居者に通知義務なく】

災害公営住宅では南町一丁目住宅、魚町入沢住宅の敷地の一部が、がけ崩れのイエローゾーンに指定されています。いずれも県のがけ条例(建築基準条例第5条)に基づいた安全基準で建設しているため、問題はないそうです。今後の調査で警戒区域に追加指定されても安全上の問題は生じませんが、住棟がレッドゾーンに入った場合は既存不適格の扱いとなるため、のり面保護や擁壁設置などの対策を復興庁と協議することにしています。

イエローゾーン、レッドゾーンに指定された場合、不動産取引の際に説明責任が生じますが、賃貸の場合は説明の義務はないそうです。法的な問題はないとはいえ、津波で被災した人たちが安全を求めて住むのですから、市として丁寧な説明が必要だったと思います。


【土地区画整理はイエローゾーンを外せない理由が】

盛土かさ上げで津波対策を講じた土地区画整理事業の区域では、以前からイエローゾーンに指定されているエリアがありますが、「指定区域内の建物が修繕等を経て残置のままとなるほか、かさ上げ手法がなくなり、窪地が発生して逆に津波・冠水の危険性が高まる」ことなどを理由に、住宅建築に支障がないことから問題としてきませんでした。レッドゾーンは市有地に換地しています。

まだ指定されていない地域では、造成を反映させた再調査を行ってから説明することにしています。国からは土地区画整理法にはイエローゾーン、レッドゾーンについて、従前の土地に引き渡した場合は説明の必要がないことを確認していますが、市が計画した復興事業という観点と、説明を受けずにイエローゾーンに換地した例もあることを考えると、市は「説明した方がよかった」と反省しています。

※下図は内湾地区の危険箇所と指定地域です

【住宅を再建できない深刻なケースも】

東洋経済新聞が3月15日の記事で取り上げたように、震災前から一部がレッドゾーンに指定されている宅地において、指定から外れた敷地内に住宅を再建しようとしたところ、がけ条例による規制で建築できないことが判明したケースが出ました。警戒区域の指定とは別に、県のがけ条例によって急傾斜地の近くに住宅を建築することをより厳しく規制されているためです。居室はがけの高さの2倍離さないと建設できなかったのです。

この住宅は修繕されていましたが、土地区画整理のために補償により解体した経緯があり、市は現況を詳細に測量したうえで、擁壁設置、別な場所への換地などの対策を検討します。特殊なケースですが、市は「安全な場所に自宅を再建できるようにする」と説明しています。


【1000年確率の洪水想定は5月以降に公表】

住宅再建先が土砂災害警戒区域となる問題は気仙沼市以外でも発生しています。イエローゾーンは勾配や距離などで決められているため、擁壁設置などの対策を講じても、指定から外されることはなく、住民が心の底から安心する対策はとても難しいというのが正直な感想です。

しかも、新たな混乱が心配されます。

国は災害から命を守るため、想定される最悪の災害への備えを求めており、気仙沼大川と鹿折川では、1000年に1度の確率とされる大雨を想定した洪水浸水想定(想定最大規模)を宮城県が年度内に公表することにしています。4月11日の市議会震災特別委員会では「来月以降に早く出る」との説明でした。

その想定がすでに公表されている一関市の夏川では、雨量はこれまでの想定の2倍以上となりました。下図にある神奈川県の相模川でも、従来の想定に比べて浸水域が大幅に拡大しました。

気仙沼市が公表してきた大川と鹿折川の浸水想定は50年に1度の大雨から計算しており、鹿折北の防災集団移転団地を含む広い範囲が浸水想定範囲となっていますが、1000年の1度とされる大雨でどうなるかは想像もできません。


【最悪の津波想定も公表予定。福島では浸水域拡大】

河川の想定最大規模の洪水想定とは別に、最悪の津波想定もいずれ公表されます。

震災後に成立した津波防災まちづくり法に基づき、想定される最大の津波が満潮時に発生し、津波が乗り越えた防潮堤は壊れてしまい、さらに地震による地盤沈下も発生するという設定で浸水想定を公表しなければならないからです。

詳しくは気仙沼復興レポート㊷「最悪の想定に備える」をご覧いただきたいのですが、東日本大震災は干潮時の津波襲来でしたので、満潮だと1mほど高い津波になってしまいます。現状よりさらに地盤沈下する設定も加われば、東日本大震災よりも浸水域が拡大する可能性が高いです。

災害危険区域は今回と同じ津波に対し、防潮堤が機能した場合の想定浸水域ですので、異なる設定の浸水想定による混乱のも想定されます。

大規模被災3県のうち福島県が今年3月に最悪の想定を公表しましたが、心配していた通り、河川流域などで今回の津波の浸水域を大きく上回る地域がありました。

例えば、いわき市の「四倉海岸・平海岸①」エリアでは、東日本大震災で7.6mの津波が襲来し、レベル1設定で海抜7.2mの防潮堤を整備しました。しかし、最悪の想定では津波の遡上高は海抜12.8mとなり、東日本大震災の浸水範囲より大幅に拡大する結果となったのです。

※下図が最悪の浸水想定で、黒い線が震災の浸水範囲です


【過剰反応せずに避難第一で】

住宅再建後に指定される土砂災害警戒区域、そして1000年に1度の洪水想定、さらに災害危険区域を上回る心配もある最悪の津波想定と、市民を不安とさせる材料が次々と発表されます。

富士山でも300年前は噴火しており、1000年単位の災害に対しては落ち着いた対応が必要です。災害に過剰反応しない一方で、油断せずに避難第一で行動することが大事なのです。それぞれの想定について正しい理解が求められますので、今後も情報発信を続けていきます。

 

 

 

 

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