気仙沼市の5年後を見る【中期財政見通し公表】

気仙沼市の中期財政見通しが公表されました。復興期間が終了する2020年度以降の財政状況が見えてきましたが、やはり建設事業など投資的な経費に余裕がない状況が浮き彫りとなり、126億円にも及ぶ市営住宅基金が目立っています。


【復興期間終了後は294億円規模】

中期財政見通しは、新年度予算編成方針と合わせて毎年公表されています。収入と支出を見極めながら、市政を運営していくために重要なデータです。

公表されたのは2018~2022年度までの5年間の歳入と歳出の内訳、基金や市債の残高などです。2020年度までは復旧・復興事業によって歳出が469億~1042億円に膨らみますが、その後は震災前の規模の282億~311億円(2010年度決算は281億円)に戻っていきます。

推移は下表でご確認ください。

 


【人口減で交付税は年間3億円減。貯金を取り崩し】

重要なのは歳入(収入)です。復興した新しい家屋や事業所からの固定資産税によって市税は増えるものの、2020年度まで続く合併経過措置の縮小や人口減少によって地方交付税が減少していきます。

地方交付税は単純計算で市民1人当たり年間12万円ほどですので、1000人減ると1億2000万円もの減収となってしまうのです。市の推計では、2018年度と比べて2020年度は人口減によって10億円も減収となる見込みです。市町合併による緩和措置の縮小により、2019年度から3億円ほど減収になりますのでまさにダブルパンチです。

歳出(支出)は歳入と合わせて減額させますが、どうしても必要な経費が足りなくなるため、自治体の貯蓄に当たる財政調整基金を取り崩して不足分を補います。この基金は復興分が加わって2018年度末に153億円もありますが、2022年度末には33億円まで減ります。2022年度で10億円を取り崩す見込みとしていますので、そのままのペースだとそれから3年で消えてしまうことになります。

なお、財政調整基金は万一に備えたお金ですので、気仙沼規模の自治体では18億円程度(標準財政規模の10%)の積み立てが健全とされてます。基金で収支不足が補えなくなる状態が悪化すると財政再建団体へと転落してしまうのです。

基金や市債の見通しについて詳しくは下記の参考資料をご覧ください。

 


【2022年度の投資的経費は9億円。求められる行革】

2022年度の歳出内訳を見ると、総額の約半分を人件費をはじめとする義務的経費が占めています。公共施設や道路の整備に充てる投資的経費が9億円足らずですから、このままだと市民の要望に応えられる市政運営は難しくなります。2021年度の投資的経費が34億円を超えているのは、ごみ処理のための最終処分場整備に22億円を充てるためです。前述した9億円のうち市道整備の予算は4億円程度ですので、新たな市道整備計画の規模に対する不安を抱いてしまいます。

市道だけでなく保育所再編に伴う新施設整備、老朽化した公共施設の更新なども必要なため、限られた予算の中でどの事業を優先させるか、市民との議論が必要となります。

財源を確保するため、菅原茂市長は2019年度の予算編成に当たり、ゼロベースでの全事業見直しの徹底を指示するなど、震災で手が付けられなかった行財政改革に力を入れ直す方針を示しており、その成果が注目されます。新年度予算を議会に提案する際には、廃止・縮小した事業が分かるように資料を添付してもらうことになっています。


【市営住宅基金に126億円】

私が議論したのは、市営住宅基金(詳しくは気仙沼復興レポート㉟「市営住宅基金と市財政」)の在り方です。家賃収入に加えて国からの補助金が続くことにより、維持管理費を使い、建設のための借金を返しながらでも2022年度には126億円を貯金する見通しとなっています。その一方で、15億円(本来は国の借金の立て替えている8億円を含む)の市債発行による借金を計画しており、たくさん貯金があるのにわざわざ利子付きでお金を借りる状態となっているのです。

市営住宅基金は老朽化した既存市営住宅の集約、災害公営住宅の将来的な改修や解体費用に充てるために残していますが、まだまだ使う予定はなく、この基金から借りる形をとって金融機関などから借金を減らせないかと提案しています。今後も市財政について情報提供に努めながら議論を続けていきたいです。


【実質的な借金は減少へ】

最後に市の借金のお話です。2022年度末の市債(借金)残高は364億円ですが、国から交付税措置される臨時財政対策債で118億円、家賃などで賄える災害公営住宅整備事業債74億円などが多く、実質的な借金は154億円と震災前の2010年度末の215億円(臨時財政対策債83億円を除く)と比べるとだいぶ抑えられています。これは復旧・復興事業に集中していた期間は、人手不足などで市が借金するような新規事業に取り組めなかったためです。

収入が減るからといって、予算の削減だけを進めると、地域間競争に打ち勝つための新規政策に取り組めなくなり、状況はますます悪化してしまいます。事業の見直しには限界があり、行財政改革によって身の丈に合った財政運営を心掛ける「守りの姿勢」と、子育て支援や産業振興、まちづくりなどに取り組む「攻めの姿勢」のバランスが求められていきます。いずれにしても、大切な税金をどう使うのかについて皆さんと一緒に考える機会づくりが大切だと思っています。

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