水梨小学校は統合準備へ【4年に及ぶ議論の詳報】

11月17日の三陸新報に「水梨小学校が松岩小学校と来春統合へ」「市教委が押し切る」という記事が掲載されました。再編方針が示されてから5年、地域と具体的な協議を始めてから4年、記者時代を含めてずっと見つめ続けてきた議論を振り返り、反対一色だった地域が統合へ舵を切った背景を考えました。

【水梨小の校舎は平成8年に新築したばかり】

少子化を受けて全国で小・中学校の統廃合が進む中、少子化問題がより深刻な気仙沼市は統廃合の議論を避けてきました。その理由を私なりに考えてみると、気仙沼は旧町村単位のコミュニティが強く、学校の統廃合が地域へ及ぼす影響が大きかったからだと思います。実際、子どもが少なく今回の統廃合計画の対象となった水梨小学校は1996年、月立小学校は2006年に校舎が新築されたばかりで、まさに地域の希望となっていたのです。

その気仙沼市がようやく重い腰を上げたのは震災の直前でした。かつてマンモス校だった気仙沼小学校で、2010年の1年生が1クラスだけになることが分かり、その年に就任した菅原茂市長が「小・中学校再編は不可避」と宣言し、再編計画の策定に着手しました。具体的な再編計画など詳しくは気仙沼復興レポート㉙で紹介し、学校再編についてはホームページの学校再編コーナーで主な動きを報告していますのでご参照ください。

ここからは水梨小学校を松岩小学校へ統合する計画が決定するまでの経緯を振り返っていきます。

【反対一色から議論がスタート】

2013年3月に策定された気仙沼市義務教育環境整備計画では、水梨小学校を第二段階(2015~2017年度)に松岩小学校へ統合する実施計画が示されました。第二段階は複式学級(2学年合わせて児童数が16人以下は1つのクラスとなる。※1年生を含む場合は8人以下)の解消が目的で、小学校では小原木、月立、馬籠も対象となりました。

この計画を策定する際、2012年7月19日に水梨地区でも地域懇談会が開催されました。出席した19人の意見は、反対一色でした。震災による住宅再建によって住民が増えることへの期待があったほか、学区外からの通学を認める小規模特認校の適用、学童保育の実施によって子どもが増えるのではないかという意見などがありました。

各地区をまわった地域懇談会の後、計画策定の諮問を受けた義務教育環境検討委員会の第12回会合が開かれましたが、そこでは「地域懇談会で複式学級を肯定する発言があった。なぜ問題なのか、検討委員会の議論がうまく伝わっていないのではないか。学校と地域コミュニティーの関係も深刻な課題だ」という懸念が委員から出て、委員長からは「複式学級解消という基本線は避けられないが、機械的に当てはめていくだけではいけない」との意見もありました。この時期は仮設住宅での暮らしが落ち着き始めたものの、災害危険区域や防潮堤の説明会と重なり、震災復興と小・中学校再編の議論が混在する混乱期でした。

話を進める前に、検討委員会が複式学級解消のための統合が必要と判断した理由をおさらいしておきます。

【目的は複式学級の解消】

検討委員会が設置されたのは震災直前の2011年1月25日。元校長、地域や保護者の代表、小・中・高校の校長ら15人で構成し、委員長には宮城教育大学の菅野仁氏を選出しました。2月21日の第2回会合では、学校規模が教育効果に及ぼす影響、人間形成に関わることを実証できるのかという問題提起があり、統合ありきではなく慎重に議論していくことを確認しました。

2当初は2011年10月に答申する予定でしたが、震災によって1年遅れました。震災による中断は6カ月でしたので、緊急的な統合が必要となった浦島小学校、南気仙沼小学校の議論を先行させながら、議論の時間は予定より長く確保したのでした。

小・中学校の適正規模の議論では、小規模校のメリットとデメリットを整理しました。対象校も視察したうえで、小規模校に勤務経験のある元教員の委員が「複式学級の市道には無理がある。解消する方向で進めてほしい」との発言もあり、私の記憶と記録では、複式学級を解消する方向性に異論は出ませんでした。その結果、第二段階で複式学級を解消するための統合が盛り込まれましたが、第二段階がスタートする2015年度に復興状況を見て計画を見直すことを明記したことにより、第二、第三段階の具体的な議論の時間は少なかったように感じました。

※下表は検討委員会がまとめた過小規模校のメリットとデメリットです

【統合時期を2度延期して2019年4月に】

再編計画策定後、第一段階の対象となった小学校(浦島、白山、落合)、中学校(小原木)の議論が先行したため、水梨小で地域懇談会がスタートしたのは2014年11月でした。それから地域の反対意見に対して市教委が答弁する形で、議論は平行線をたどりました。2015年度の計画見直しでも水梨小を統合する方針に変更はなかったものの、反対は根強く、2017年度の統合は二度延期して2019年春になっていました。

しかし、13回目となった2018年11月15日の地域懇談会で流れが大きく変わりました。もう統合の必要性や賛否の議論ではなく、統合準備の議論に移行することとしたのです。

【児童数20人を切って危機感高まる】

各回の地域懇談会の概要は最後のにまとめました。最初は反対一色でしたが、児童数の減少が続き、2018年から20人を割ってから運動会などの行事で地域住民が心配し始め、6年生7人が来春卒業すると残りは9人となるのに、新入生は4人で指定校変更によって全員入るかも分からないという状況が拍車をかけました。落合小、白山小でも20人を下回ってから統合を求める意見が増えたことを思い出しました。

水梨は指定校変更が特に深刻で、地区内には34人の小学生がいますが、18人は松岩小などへ通っているのです。水梨小の保護者の採決では統合に反対4、賛成3ですが、この家庭を含めると大多数が賛成していると考えた住民もいました。

【半分以上が指定校変更。転校の検討も】

未就学児の親も含めた保護者との座談会では、中学へ1人で入学することが不安だったり、同級生の友達がほしくて松岩小への転校を検討している家庭があることも分かりました。

これまでの地域懇談会では、「仕方ない」と思っていた人が反対に切り替わるなど、市教委の説明が逆効果になるケースが目立ちましたが、統合を仕方なしと考える保護者の思いも知り、最後は地域住民が危機的状況を自ら感じ取って市教委の決断を促したと感じました。小規模校は先生がマンツーマン状態で指導してくれるメリットがある一方で、やはり友達が限定されることへの不安があることがあらためて分かりました。

「市教委が押し切った」というよりも、懇談会の雰囲気が統合仕方なしに変化したことで、全員の賛成が得られないけれども統合準備に入ることを決断したということだと思います。

【残り少ない準備期間への不安も】

根強く反対する保護者や住民もいるので確定ではありませんが、これから統合準備の話し合いに移ることになりそうです。来年4月まであと4カ月少々。統合準備会には松岩小も参加するので、かなり厳しい日程となります。いままで慣例となっていた市長が懇談会に出席しての最終決断という流れもあり、同じく来年4月に統合する方針が示されているものの、保護者と地域住民が猛反対している月立小と合わせて今後の対応が注目されます。

 

水梨小学校統合にかかる地域懇談会の概要 →PDFデータはこちら (今川まとめ)

開催日 市教委の説明内容 参加者の意見等
1 2014年 11月25日 2017年4月統合へ向けた市の再編計画、児童数の見込みを説明 住民の意見は反対一色。新校舎を建てたばかりの統合を疑問視。小規模特認校による児童増を望む意見、小規模校の良さを説く人あり。小規模校が良くて引っ越してきたという女性も。
2 2015年 7月27日 適正規模の方針、再編計画の進め方を説明 小規模校は全員が主役である。学校がなくなることで地域が衰退することが心配。復興が進んでいないのに時期尚早であり、牧沢の公営住宅団地による人口増を期待する意見も。複式は問題だという意見もあった。
3 10月26日 児童数から見た複式学級の見込み、指定校変更状況などを説明 牧沢住宅の児童の通学区は松岩小であることが説明される。児童の心のケアのため、統合前に松岩省との交流会を進める方針も示される。

 

4 2016年 6月23日 再編計画を見直し、統合を2018年4月に延期したことを説明 統合が財政ではなく教育環境のためであることを確認。市教委は小規模校の良さを否定せず、適正規模のメリットを説く。保護者からは松岩小周辺での津波被害を心配。いずれ統合は仕方がないという意見もあり。統合準備のため2017年度に教員1人を加配する方針も示す。
5 9月12日 津波浸水域と災害危険区域、松岩小体育館の耐震補強を説明 牧沢団地全体を松岩小学区にすることに疑問の声。統合後はコミュニティスクールとして、郷土芸能継承を含めて地域を大切にする方針が示される。PTAの話し合いでは大半が反対したと報告あり。市教委は保護者だけとの懇談を希望するも叶わず。
6 10月27日 学校規模のメリットとデメリット、児童間交流を説明 保護者から集団教育は中学になってからでもいいとの意見。統合計画が公表されたことで指定校変更が増えていることが指摘される。統合を決めなければ教員の加配をやめることを示唆する市教委の発言に、PTA会長が「おどしだ。当面、懇談会は必要ない」と猛反発。
7 2017年 5月17日 スクールバスを2コースにする例、運行時間例を説明 PTAによるアンケートで、反対13人、無回答2人、賛成1人の結果を報告し、地域の人たちと自然に囲まれながら育てたいと存続を懇願。
8 7月16日 市議会の質疑を説明。再編計画概要、過去の懇談会議事録を配布 勤め人も参加しやすいように、初の日曜日開催。水梨保育所の閉所にかかる経緯に不満の声。発言しない人の考えを知るため、市教委は参加者に自由記述のアンケートを配布するが、市教委への不信感から立会いでの投入箱開封を要請。
9 9月13日 前回のアンケート結果、先に統合した馬籠小児童の様子を報告 アンケートは存続を求める意見ばかり。市教委は適正規模校の保護者参観を呼び掛けた。市議会で教育長が答弁した「学校は地域の宝との概念を大切にするあまり、子どもを犠牲にしてしまう可能性がある」の発言撤回を求める意見あり。
10 2018年 1月11日 統合時期を2019年4月に延期することを説明 統合の延期は「準備の期間もあるため」と説明。教育長がエリクソンの心理社会的発達理論をもとに、学童期での集団生活による切磋琢磨の必要性を説く。いじめ、不登校を心配する意見あり。小規模校のデメリットばかり取り上げる市教委に対し、「統合は仕方ないと思っていたけど反対する気持ちに変わった」という住民も。市教委は小規模特認校で成功している浦戸小・中の視察に同行を呼び掛ける。
11 3月26日 新年度の全校児童数が16人になることを説明 PTA会長が「統合には反対だ。説明は理解しており、これ以上は意味ない」と発言。小学校がない地区での子育てが敬遠されることを心配する人も。浦戸視察をもとに特認校化を求めるも、市内全体が少子化であることなどを理由に市教委は難色を示す。
6月 2日 運動会で子どもの少なさを実感したことで地域主催の懇談会を開催
12 6月30日 統合に向けた準備スケジュール、学校跡地活用の考え方を説明 子どもがいない家庭は行きにくいとの指摘を受け、会場を水梨小からコミュニティセンターに変更。教育長が「懇談会の回数を重ねても出席者が固定して同じ議論となっている」と準備作業を進めることに理解を求める。小学生が「なくさないで」と訴えるも、住民からは「6年生が卒業すると残りは9人だけ。地域活性化は大人の役割であり、統合とは別に考えるべき」と統合を認める意見を出す。子どもの入学を控えた母親は「友達がいる松岩に行きたいと子どもに言われた。それぞれに良さがあり、子どもの行きたい方へ通わせたい。なくなるのは嫌だけど、この人数で6年間通わせるのは不安」と悩みを語る。
10月16日 市教委が保護者との座談会を開催
10月30日 市教委が未就学児の保護者らとの座談会を開催
13 11月15日 保護者、未就学児との座談会の内容を報告。これまでの懇談会の進め方について「丁寧な説明ではなかった」などと謝罪した 9月のPTA臨時総会で反対4、賛成3だったことを会長が報告。すでに松岩小へ指定校変更で通っている子の親たちが「大人数での経験が社会に出て打たれ強くなると期待した」「罪悪感があるが、友達をたくさん作ってほしくて松岩に通わせている」と勇気を出して発言。反対してきた地域住民の中にも、「指定校変更した子が在籍児童より多く、実際は賛成が上回っている。9人の学校ではあまりにかわいそうだ」「現実を考えよう」と統合を容認する意見も出た。水梨小の保護者からも「いつかの時点で線を引く必要がある」「反対が1人でもいれば結論が出ないのか」という発言があった。その一方で、「児童を増やす努力もしてなく、話し合いはスタートラインにも立っていない」などと反対を続ける保護者、住民もいた。市教委は「在籍児童数の減少は著しく、これまで経験したことのない学校環境となる恐れがある。不安は多々あると思うが、教委の責任として来年4月の統合を考えている。次回から統合に向けた具体的な話し合いに移りたい」とした。これに対し、「強制的な統合だ」と反発する意見もあったが、最後に統合準備に進むことを最終確認して終了した。た。

 

 

 

 

 

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