魚町のフラップゲート防潮堤で施工ミス【詳報】

新聞報道などで注目されている気仙沼市魚町の防潮堤施工ミスについて報告します。地盤隆起分の22㎝を堤防高に反映させると宮城県は約束していましたが、反映させずに半分の区間が完成してしまったのです。地域は修正を求めていますが、県はこのまま進める方針を示したため、真っ向からの対立状態にあります。このままだと大きな禍根を残すため、新聞報道だけでは分からないことを含めて整理しておきます。

【なぜ堤防高にこだわるのか】

魚町では、防潮堤の高さにこだわって議論が続けられてきました。気仙沼漁港を管理する県は、2012年に海抜6.2mの防潮堤を整備する計画を示しましたが、「海が見えなくなる」「コンクリートの壁で覆われるのは嫌だ」と地域が猛反発しました。

この対策として、市が防潮堤のアイデアなどを募集した結果、津波襲来時に海底から鋼管が浮上する「直立浮上式防波堤」が最優秀賞に選ばれましたが、村井嘉浩知事が「安全を担保できない」と頑なに導入を拒否。粘り強い議論により、津波シミュレーションの設定条件確認などによって海抜5.1mまで計画変更を認めさせたうえで、さらに余裕高分の1mを津波襲来時に起立するフラップゲートを採用することで、実際は4.1mの堤防高に至ったのです。

背後地は土地区画整理によってかさ上げしますが、区画整理から外れる地域への影響もあって大幅なかさ上げができないため、堤防高は「歩いている人から海が見える高さ」に落ち着きました。背後地の盛土高は最大で海抜2.8m、堤防高は海抜4.1mで、陸側からの見た目の堤防高は1.3m。これが防潮堤そのものに対する反対意見が根強く残る中での妥協点でした。議論には3年の月日がかかり、土地区画整理事業の着手も遅れましたが、対立を避けて妥協点を見出したのでした。詳しくは2015年4月8日の投稿をご覧ください。

【隆起分22㎝の反映を約束したのに】

計画に合意してことで、2015年7月に工事が発注されましたが、震災で沈下した地盤の隆起が続いていたため、堤防高に反映させるように2016年5月に要望書が提出されました。県は国土地理院による水準点改定を受け、魚町は地盤が隆起した22㎝分をさらに下げることを2017年3月の内湾地区まちづくり協議会ワーキングで約束しました。

このとき、堤防高の見直しのため、工期を魚町は2017年1月を12月に、南町は2月を6月に延長することも説明されました。

堤防高を下げるのは、水準点が改定されていますので、そのままだと堤防高は海抜4.32mになってしまうからです。つまり、22㎝下げることで海抜4.1mの堤体となるのです。一方、土地区画整理の盛土には地盤隆起分が反映されないので、堤防高を22㎝下げると、見た目の高さは1.08mになります。子どもの目線でも海が見える高さです。

南町を含めた防潮堤の工事は11億4500万円、フラップゲート設置は6億9500万円で発注しました。現在の工期は今年9月28日までです。

【施工ミスの原因は変更データの記載漏れ】

魚町の施工ミスは、今年3月2日の監督員による点検で発覚しました。魚町工区312mのうちすでに160mの防潮堤本体が完成し、そのうち96m区間にはフラップゲートも完成していました。隣の南町工区は243mのうち160mが完成していますが、地盤隆起分はちゃんと下げてありました。

なぜ、魚町だけミスが発生したのでしょうか。5月1日に開かれた県の説明会では、杭の打設が終わっていたため、杭の頭を基準に堤防の下端を変更するように指示する際、変更したデータが抜けてしまった資料がコンサルから施工業者に渡ったためだと報告されました。もっと詳しくいうと、変更前は杭の先端は海抜1.7mで計算し、その先端から「1.3m下」を堤防本体の下端にする設計でしたが、22㎝の隆起分を反映し、杭の先端から「1.52m下」と修正した図面で施工すべきだったのですが、修正されなかったのです。

「変更要素はすべて確認すべきだったが、コンサルが記載漏れして、県が確認せず、施工業者も正しいと思いこんだ。過失割合は整理できていないが、県の監督責任は相当重い」と県の担当者は説明しました。南町は、堤防の頭を切ればいいシンプルな工事変更だったので間違えませんでした。

※追記―5月25日の市の説明によると、2017年12月に変更が反映された図面が施工業者に渡されましたが、変更に気づかなかったそうです。

【県は三つの対策案を提示】

5月1日の説明会で、県は次の三つの対策案を示しました。

①防潮堤の造り直して、1.08mの見た目の高さを確保する

②防潮堤はそのままだが、道路と宅地をかさ上げして1.08mの見た目の高さを確保する

③現在のまま工事を終える代わりに、地域振興策に取り組む

①の造り直しの場合、上に設置したフラップゲートを取り外し、コンクリートの堤防本体を22㎝削ります。フラップゲートの本体は幅13.7mもあるため、撤去作業で歪みが生じれば再利用できなくなります。ゲートを支えるための両サイドと下部の戸当は再製作しなければなりません。追加の工事費は2~3億円の見込みです。

②の背後地をさらにかさ上げする対策は、10~30㎝ほどの盛土を提案していますが、どこかに段差が発生してしまうことが課題です。さらに区画整理の設計変更、関係機関との協議だけでも9カ月を要する可能性があります。

防潮堤は今年3月に完成予定でしたが、このまま進めた場合でも9月、造り直した場合は来年5月以降にずれ込みます。

※次の図面は宅地引き渡しに影響させないための工事方法のイメージ、堤防高を修正する手法、そして背後地をかさ上げする場合の範囲です

【造り直しても、宅地引き渡しには影響しない】

県と市の調整によって、宅地の引き渡しには影響しないように防潮堤を造り直す手法が示されました。防潮堤のすぐ後ろを走る気仙沼港線は幅員が11.5mもあるため、そのうち7.5mがあれば防潮堤工事ができるというのです。片側通行、一方通行にすることで、宅地の利用もできます。

ただし、施工ミスとは関係なく、防潮堤工事が計画よりも3カ月遅れたことは、宅地の引き渡しにも影響します。

説明会では、次のような質疑がありました。

Q1.このまま進めると南町だけ堤防高が低くなる。危険はないの?

A1.津波は低い方から越流開始するが、その差は短期間のため、津波シミュレーション結果は悪い方にならないと推定される

Q2.宅地を海側だけかさ上げすると、逆勾配になって雨が排水できなくなるのではないか?

A2.排水は逆勾配で計画しており、側溝を折り返して海側に配水するようするので問題ない

【内湾ワーキングの要望は「造り直し」】

この説明会の後、魚町の51画地の地権者47組を対象に個別の意向確認を実施。県は、防潮堤の「造り直し」は13組、「造り直さなくていい」は22組、「道路と宅地のかさ上げ」2組、「その他」8組という結果をまとめて、5月18日の内湾まちづくり協議会ワーキングに報告しました。

しかし、ワーキングメンバーが独自に地権者へ確認したところ、防潮堤を造り直すと区画整理の宅地引き渡しが遅れると勘違いしたまま調査に回答した人が多いことが判明したというのです。それを証明するように、魚町2区自治会が40人の署名を添えて隆起分を反映した防潮堤を要望したため、ワーキングとしても造り直しを県に要望することを決めたのです。

魚町二区の要望書には「将来に負の遺産や禍根を残すことなく、早期に魚町に戻り、これまで通り海の見える生活がしたい」と住民の思いが綴られています。

※下の表は県がまとめた個別意向調査の結果です。区画整理への影響がないことが十分に伝わっていないことが課題になりました。

【村井知事は「このまま進めたい」】

18日のワーキングには、村井知事も出席し、造り直しの要望に至る議論を聞いていました。

ところが、その判断を聞いた村井知事は「(高さを修正しないで)このまま進めたい」と宣言しました。工事がスタートしたばかりなら全面見直しもありえたが、工事はもう50%完成していることから、次の三つの理由を挙げました。

・造り直すと完成に時間がかかってしまう。フラップゲートはデリケートな構造物。撤去と再設置は施工して業者とはおそらく別な業者になるが、難しい工事のため入札不調となる可能性が高い。

・造り直すのに2~3億円かかる。(業者などに)応分の負担は求めるが、県民の税金も使うことになる。より安全度が高まっているのに、県民が理解してくれるだろうか。復興後の平成33年度以降のお金のことで悩んでいるのに、被災者のケアと優先順位はどちらが高いだろう。県全体のことを考えると、現状で進めて、被災者のケアにお金をまわしたい

・意向調査で少なからず「このまま進めて」という人もいる。地区全体のことを考えれば理解は得られる。

理由を説明したうえで、村井知事は「県全体を俯瞰して選択しなければならない。批判は私が受ける。必要なら誤りに行く」と語りました。

ワーキングのメンバーからは「我々の心のケアは」「お願いなのか、決定なのか」との質問があり、村井知事は「意思決定した。すごく悩み、職員とも何時間も議論した。県全体のことを考えて行動しないといけない。工事は50%完了しており、このまま進めることが全体の利益につながる。いつまでも、なあなあというわけにはいかないので、今日やってきた」「後戻りしないで進めたい。方向性を出して準備に入らないといけない」と強い決意をあらわにしました。

【結論は持ち越したものの】

村井知事は強い決意を示したものの、地域の意向と真逆のため、月内にでも再び知事と話し合うことにした。県が代替案を示すことを求める意見もありました。

菅原茂市長は「内湾は難しい議論をクリアして全国に発信してきたのに、最後に意見が対立したまま進むことは避けたい。さすが内湾という方向が出せるように市も努力したい」と語りました。

地域は知事の強硬的な姿勢に大反発です。ようやく被災地の防潮堤問題が終焉を迎えようとしていたタイミングで、最も議論した内湾で堤防高のミスが発覚するとは誰も予想していませんでした。今後、どのような打開策があるのか。ミスを犯したのは県ですから、正しい高さに造り直すのが筋ですが、そのお金は県民の負担になってしまいます。もはや知事が謝罪しただけでは済まされない問題です。今後も状況を報告していきます。

 

※魚町の問題とは別に、南町では完成した防潮堤を隠すように公園工事が進んでいます。防潮堤と一体的に設計した商業施設の建設も進んでいます。二枚目は南町側の完成イメージです。

 

5 Comments

  1. Kohsuke Fujita

    ・あちこちに書いてきましたが造り直すべきです。海抜4.1mは(陸側から1.08mを含め)防潮堤の一つのスタンダードになるべきものです。時間と知恵の濃密な合意の結晶だったですから。
    ・県のお金がかかるのは県の事ですからあたりまえです。誇りをもってお金をかけましょう。(…県税や市税がかかるのであれば防潮堤は作らない、の本音が見えます)
    ・造り直さなかったら…という事はなにを言っても理由にはなりませんが私は一つだけ魚町南町の連結した防潮堤の高さの違いはどの面からも許されないと思います。住民の身になって考えてください。
    ・図面によるミスの説明などの図面は分かりにくい、というより分かりません。役所の図面そのままではなく噛み砕いて分かりやすくお願いします。フラップ機能などもそうですが、このような市民が分からないレベルの図面がミスの一つの原因だったと思います。フラップゲートもデリケートとかでなくて有事に機能するかどうかが問題です、不明です。

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  2. F

    一市民として言わせて貰えば、22センチ程度どうでもいいだろという感想しか出ませんね。
    低く作ってしまったならともかく、高く作ったからどうというのか?。
    ましてや高さの違いなんて22センチ程度どう目視できるというのか?。

    あとちゃんと覚えてますよ。
    景観がとか言うなら、そもそもあの辺りは堤防と建物で
    海なんか殆ど見えなかったってこともね。

    むしろ、これだけ騒ぎになって気仙沼のイメージ低下にになる方が心配です。
    せっかく同様に全国から叩かれる心配のあった漁船保存問題を回避したというのに、
    またこれかという感想しかありません。

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  3. sasaki hiroaki

    内湾まちづくり協議会のみなさん、頑張って下さい。海の風景が生活に直結している皆さんの要望を受け入れないで堤防必要論を押し付けた県政に原因があります。すぐ近くに高台があるので避難路をつくればいいと言う市民の考えを強引に押しきった県政の体質が問題でしょう。さらに県民全体を優先し協議会のみなさんの精神的苦痛は我慢していただく、と言った主旨の知事の発言はとんでもない暴言です。リコールに値します。堤防高誤りの責任は知事にあるのではありませんか?自分が市民の意向に反した堤防工事を押し付け、工事を誤ったら皆さんの税金が無駄になるから訂正工事は出来ない… 誤った原因者が工事費用を全額負担すればいいことではないですか?
    この問題は高さの大きさではないでしょう。県政が起業した事業を遂行するためには地域住民の意向や希望はあまり重要視しないという体質です。
    かって新月ダム必要論で市民と県政が対立したことがあります。強引に押し付けた体質は今度の堤防必要論と全く同じです。結局、住民側は一坪運動で乗り切ったのです。この時、気仙沼市長は市民の希望にそいたくても県政の顔色を伺いながら市政をしなければならず苦難の市政を強いられた。
    この父親の様子を見てきたのが、息子である、内湾地区まちづくり協議会の代表であることを県政はしらないのではないだろうか。
    協議会のみなさん、頑張ってください。

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  4. F

     この問題で腹が立つのは、政治的に利用しようという、卑怯な連中の姿が見え隠れする点ですね。いかにももっともらしい反対派擁護等を行っていますが、実際は早く元の場所に帰りたい地元住人の意向を無視し、リコールなど騒いで政治的に騒ぎ、自分の政党に有利にしたいだけの、ただのおためごかしなのは明白。

     でなきゃ、作り直しの費用を業者に払わせようなんて脳天気な意見なんて出ませんよ。ミスの責任はどこにあるのか、裁判や調査委員会等によって何年も長引き、当然それに伴って帰還がずるずると遅れて行くのは確実。早く帰りたいという地域住民の希望は、そいつらによって踏みにじられていくことになります。この問題、次の知事選まで長引かせるつもりですか?。

     そもそも、この問題はどうやっても誰もが納得する結果に持っていく事は出来ません。そこをあえて泥を被るのを覚悟の上で、知事と市長は決断をしている。全ては震災特例措置の期限や帰還住民の高齢化等、時間が無い故の苦渋の決断。それを利用しようとしている連中を、私は許さない。

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  5. ko

    備えあれば憂い無し。
    これを常に考えて行くことがどれだけ大変かわかりますね。子どもでも海が見える、街の景観、それらを優先するのは悪いことでは無いでしょう。しかし、震災直後であれば防潮堤があれば、防潮堤がもっと頑丈だったら、もっと高かったらと思った人は多いんじゃないでしょうか。
    22センチの違いを元に作り直しに何億と税金をかけることが良いことなのか。機能としてはむしろ上がっているはずで、作り直しを推進しようとしている人たちの意見が行政批判にいくのはどうも外部の人間からすると不可思議に見えます。
    どんな仕事でもトラブルや間違えは起こります。原因を明確にし責任の所在も明確にすることは必要ですが、当初の目的(本質的な)がクリアできてるのであればそこまで問題になることではありません。
    例えて言うなら掃除機をネットで頼んだら少しだけほんの少しだけ大きな上位機種が届いてしまったようなものです。勿論その大きさに魅力を感じていたなら返品やむなしですが、できるだけ効率よく掃除したいのであれば選択肢としては有りじゃないでしょうか。
    この議論で一番違和感を感じるのはそこです。防潮堤は津波を防ぐためのものです。ミスによるその機能の向上は無視して無理やり何かを批判しようとしている気がします。
    この22センチが次の世代の子どもの命を救う可能性さえも有ると私は思うのです。

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