館漁港の防潮堤に反対した理由【定例会続報】

気仙沼市議会2月定例会の概要をお伝えしましたが、肝心なことを報告し忘れていました。館(たて)漁港の防潮堤工事契約締結に反対しました。

館漁港は岩手県境の唐桑町小原木地区にあります。堤防高は海抜11.3㍍、延長は130m、工事費は約4億円です。

【工事費4億円。堤防高より下に建物なし】

リアス式海岸の入り組んだ地形に漁港があり、背後地はすぐ高台になります。計画している堤防高より低いところに建物はなく、災害危険区域のため今後も住宅の建築は制限されています。

それでも、気仙沼市が防潮堤は必要だと判断したのは、生活道を守るためです。民家はレベル1津波よりも高い位置にありますが、そこへ車で行くための生活道が津波で浸水してしまう想定です。このままだと、津波がきたときに道路が使えず、民家4軒が孤立するため、防潮堤を造ります。

数十年から百数十年サイクルで襲来するレベル1津波からは民家や事業所を守り、それ以上のレベル2津波は避難を含めた多重防御で対策を講じることが基本です。多くの人が利用する幹線道路なら分かりますが、生活道まで守らなければならないというルールにすることを疑問に思いました。

しかも、財源は国民の増税を中心とした復興予算です。防潮堤は必要なところには必要ですが、それ以外の場所では慎重になるべきです。

※下の図は、市の説明資料をもとに防潮堤で守られるエリアをまとめました(手作りですので多少の誤差があります)

【賛成多数で可決。これからも同じルールで】

この議案に反対したのは議長を除く22人の議員の中で、私と熊谷雅裕議員の2人だけで、賛成多数で可決しました。私の反対討論に対し、「もしものときの避難道を確保すべき」という賛成討論がありましたが、避難道は津波が襲来する前に使うものだと思います。

議案を付託された産業経済常任委員会で、市からは「必要な防潮堤であり、要望があれば、復興予算がなくなっても同じルールで防潮堤を造っていく」という答弁がありました。この議案を可決したことで、気仙沼市では生活道を守るためにレベル1津波を防ぐ防潮堤を整備するというルールができたことになります。

【4年間、防潮堤問題と向き合ってきました】

防潮堤の検証は、議員になるときの約束でしたので、できるだけ現地と説明会に足を運び、議会で議論してきました。JRの線路より低い防潮堤を計画していた本吉町の蔵内漁港の草木沢で事業が見送りになったり、同じ理由で赤牛と津谷大沢で計画を変更したり、県事業でも神山川の堤防区間を短縮して桜を残したりと、議論の成果もありましたが、大きな流れを変えることはできませんでした。

防潮堤に賛否はあると思いますが、正解はだれにも分かりません。大切なのは、納得いくまで議論できたかどうかです。そういう意味では、被災地の中でも気仙沼は際立って議論に時間を費やしたと思います。

最期に、館漁港は子どもを連れて遊びに行ったこともあるきれいな海です。地元から早期建設の要望書が市に提出されており、地域の人が安心して暮らすためには必要な防潮堤という考え方も尊重しなければなりません。防潮堤ができたら海がなくなる分けではないものの、ずっと防潮堤問題に取り組んできた私としては無力感に包まれています。何かに反対すること、流れの決まったものを変えるということはエネルギーをものすごく消耗するということを実感した4年間でした。やはり、計画が決まる前の議論が大事です。まだ計画が確定していない防潮堤もありますので、諦めずに検証と議論を続けていきます。

※下の写真は、状況を整理するために作った地域の模型です。完成イメージは市が説明会で示したものです。

※定例会の概要をまとめたお便りもご参考にどうぞ

 

 

 

 

3 Comments

  1. ボランテイァ

    今川先生

    お世話になります。
    「防潮堤に賛否はあると思いますが、正解はだれにも分かりません。」
    のコメントですが私もそう思ってて、答えが出るのはまた同じ規模の津波が押し寄せた時だと
    思ってます。
    現時点できる事は、防潮堤が必要かどうかの答えを出す事では無く、地元住民・行政がこの集落の将来やこれまでの歴史を整理した中で、防潮堤の必要性を議論した記録を後世に残し、その議論した内容・情報を語り継ぐことだと思います。そうする事で、考え方の過ちがあれば後世が正してくれると思います。

    Reply
    1. 今川 悟 (Post author)

      本当にご指摘の通りと思います。
      どうして防潮堤が必要だったのか、ちゃんと後世に伝えていくこと大切だと思います。このブログがその一助になればとも思っています。

      Reply
  2. 千田芳嗣

    時間がないけど、一言言っておきたい。
    気仙沼内湾防潮堤の22cmミスでの県知事の対応はリコール案件であるということ。
    住民と宮城県と気仙沼市で合意形成のための地道な努力の結実としての防潮堤の高さと日本ではまだまだ新しい工法を取り入れたのだ。
    民主主義がようやく日本にも根付き始めた事例として、エポックメイキングなことだった。
    この慶事を根底から覆してしまった今回の単純なミス、そしてこのミスに対する県知事の説明は、日本における民主主義を後退させるだけのものでしかない。
    リコール運動を始めたにせよ、これが成功するとは僕には思えない。それほど高いハードルであるけれど、負けるとわかっていても立ち向かわなければならないことがある。

    たかが22cm。
    だけど、もっと大切なことを俺らは失おうとしている。
    これに対する危機感を持っていただきたい。
    そして、このことを広く訴えたいだけなんだ。

    Reply

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