【災害公営住宅】家賃値下げを継続

気仙沼市は災害公営住宅の家賃について、低収入の被災入居者向けの値下げ措置を独自に5年延長することにしました。南郷住宅の65㎡の2LDKタイプで一番安い家賃は月2万4100円ですが、入居から10年間は7400円に値下げします。11~15年目に段階的に引き上げ、16年目には値下げ措置はなくなる予定です。

公営住宅の家賃は、政令月収に応じて8段階(家賃の仕組みについては気仙沼復興レポート㉑)に区分されています。しかし、災害公営住宅の場合は、被災者の負担を軽減することを目的に、さらに安い家賃を4段階で用意して値下げしています。

【2LDKで10年間は7400円、16年目から2万4100円】

この値下げ措置は、東日本大震災特別家賃低減事業として復興予算から補填されます。ただし、期間は入居から5年間で、さらに5年の移行期間があります。5年で7400円が2万4100円になると衝撃的なので、5年の移行期間で段階的に引き上げていくのです。11年目には一般の入居者と同じ条件になります。

しかし、災害公営住宅が早く完成した市町では、今年度で据置期間が終わるため、入居者から継続措置を求める声が高まりました。行政から見れば「値下げが終わる」なのですが、入居者から見ると「値上げ」になります。気仙沼市で最初に完成した南郷住宅が6年目に入るのは2020年1月ですが、他市町の動きと合わせて延長を決めました。

国は復興予算での延長を認めなかったため、各市町が独自に延長を決めています。災害公営住宅家賃低廉化事業(詳しくは2015年4月のブログ)で、災害公営住宅1戸当たり100万円以上が国から毎年交付されるため、実質的には市町の負担はほとんどありません。気仙沼市ではこの交付金の残額を基金に積んでいますが、その積立額は今年度末には36億円にもなる見込みです。むしろ、多額の交付金をもらっているのに、入居者の支援に活用しない手はないのです。

【対象は7割。14.5億円の減収】

気仙沼市では、完成した災害公営住宅2087戸のうち、被災して入居した世帯は約1900戸、その7割が政令月収8万円未満で家賃値下げの対象になっています。値下げの継続は、減免として措置します。減収は年1億9000万円、5年間で14.5億円を見込んでいます。本来なら2万4100円の家賃を7400円へ値下げを受けている世帯は、5年間で約100万円を節約することができるのですが、市としては14.5億円の収入を失うことになります。

政令月収が8万未満の世帯が多いのは、震災による雑損控除も影響しています。被災した家屋の損害などを収入から控除できる仕組みで、災害公営住宅の入居世帯の約2割が適用しています。控除の繰越は5年だけなので、政令月収が上がる世帯が増えていきそうです。

政令月収の計算は難しいのですが、例えば夫婦と子ども2人の4人世帯で、会社員の夫の年収が300万円(税金などを除いた後の所得は178万円)、妻は専業主婦、子どもは中学生と高校生の場合、扶養控除などによって政令月収は3万2500円になります。南郷の2LDKの家賃は値下げによって月1万2500円です。ただし、子ども2人が進学などでいなくなると、政令月収は11万6000円となり、家賃は値下げ対象外の2万7800円になります。それでも近隣のアパートに比べたら半分以下の水準です。

【収入超過者は10年救済】

気仙沼市にとって家賃値下げよりも喫緊の課題は収入超過者です。政令月収が15万8000円を超えたまま入居から3年が過ぎると、通常の公営住宅のルールと同じように家賃が引き上げられたり、退去を求められたりします。公営住宅は低所得者を守るためにあり、ちゃんとした収入のある人は民間賃貸へ移るべきという考えがあるからです。震災で民間賃貸が不足したから、低所得者以外でも特別に公営住宅に入れたのです。

南郷住宅の2LDKを民間家賃にすると13万円程度になるため、収入超過の家賃は8段階の枠を超えて段階的に同レベルまで引き上げられます。気仙沼市は市内の民間賃貸はまだ借りられない状況にあるなどと判断し、入居10年目まで枠外の値上げをしないことを決めました。ただし、政令月収31万3000円以上の高額所得者は6年目から公営住宅法による明け渡し義務が発生します。

この措置によって、例えば夫婦共働きで政令月収が21万円という世帯が南郷の2LDKに住んでいる場合、現在の家賃は月4万7300円ですが、入居から3年が過ぎても政令月収が変わらないと収入超過者となり、翌年の家賃は9万400円、その翌年はMaxの12万5600円になります。これを10年目まで4万7300円(政令月収等が変わらない場合)に据え置くということになります。この世帯は7年間の延長により、600万円ほどの家賃を節約できます。

昨年12月現在、約1900世帯のうち約120世帯が収入基準を超えており、南郷住宅でも4世帯程度が収入超過者となる見込みでした。なお、高額所得者の基準に達しているのは24世帯でした。10年目まで据え置いた場合の減収額は約7億円。そもそも家賃が引き上げられた段階で退去して家賃が得られなくなることを考えれば、市の負担は大きくありません。問題は公平性、民業への影響です。

【後だし支援で、公平性の確保難しく】

まとめになりますが、災害公営住宅の家賃の値下げが5年までということ、収入超過者は家賃が引き上げられるということは、住宅再建の選択には重要な情報だったため、気仙沼市も周知に努めました。その結果、災害公営住宅を諦め、マイホームやアパート、既存の市営住宅などを選択した人もいます。そうした人たちは、今回の措置をどう受け止めたのでしょうか。

東日本大震災からの住宅再建は、既存の仕組みではどうしようもなく、追加の措置が重ねられてきました。菅原茂市長も「何をもって公平とするかは難しい」と話しているように、複雑な仕組みになってしまいましたが、いずれも被災者支援のためでした。気仙沼復興レポート㉔「住宅再建へ支援と選択」㊺「住宅再建の独自支援見直し」でも取り上げましたが、大規模災害における被災者の住宅再建の支援について、もっと教訓を整理しなければならないと思いました。

 

 

 

 

2 Comments

  1. 藤田

    レポート拝読しております。いつもわかりやすい説明ありがとうございます。

    今回の家賃低減延長措置の決定にはかなり不満があります。
    建築費自体が従来予定より高騰し公営住宅は1戸あたり3000万円程と記憶しております。はっきり言って気仙沼の物件の中では高級物件で、とても公営住宅と呼べる代物ではありません。そこに新築の状態で今まで少ない家賃で住めたことだけで入居者は多大な恩恵に預かっているとしか思えません。今が通常より安くなっているだけで、本来は家賃上がった状態が正常なわけじゃないですか。

    建築費は高騰、貸出家賃は低減、そして家賃低減延長。気仙沼市のどこにそんな財政の余裕があるのでしょうか。そもそも「民間に転居できる空きがない」ことを理由にするとなると、今後も公営住宅相当の建物ができる予定など何もない中、人口が減少していく中で新たに賃貸不動産を建築、経営していく地主がいるとは到底思えません。結局10年後同じ理由で再延長措置になるだけではありませんか。

    自力再建したものからすると、行政もなぜそれを許可するのかと憤慨します。資金の拠出も自分のお金じゃないからできるとしか思えません。資金が潤沢な市町村ならこんなこと言いません。財政が火の車な気仙沼なのだから、全部を救うことなんてできませんよ。ないものはないなりに、できないことはできないなりのやり方でもっと経営感覚をもって市政を運営してもらいたいものです。

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  2. 今川 悟 (Post author)

    公営住宅は低所得者のセーフティーネットとして整備されるので、本来なら民間賃貸より充実してはおかしくて、市民の公平性が崩れてしまいます。それでも災害公営住宅が高レベルな内容で、家賃の支援もあるのは、被災者支援の意味合いが強いです。

    しかし、ご指摘の通り同じ被災者でマイホームを再建したり、民間アパートを借りたした人との不公平はあります。市はマイホームにも約800万円の利子補給制度があることを説明していますが、災害公営住宅の方が手厚い支援が受けられるということになりました。

    最初に戻って、同じ条件で住宅再建方法を聞いたら、災害公営住宅の希望者はもっと多くなるのではないでしょうか。戸建てタイプの場合、払下げについても特別措置が考えられるからです。

    今回、市が判断した理由に、災害公営住宅のための補助金を積んでいる基金に30億円以上もの残額があり、今後もたまり続けていくという背景があります。このシミュレーション結果はまだ明らかにされていませんが、条例で目的外使用はしないことになっていますので、入居者の支援策が行いやすいのです。つまり、市が決めたというよりも、決めやすい仕組みになっていたということです。この部分に限っては「潤沢な自治体」ともいえます。

    それでも、私は公平性を考えていきたいと思います。国の制度がどうであれ、一番最後に決めるのは気仙沼市だからです。制度が複雑なため、できるだけ説明して情報発信し、藤田さんのような意見を探しています。「被災者のため」ということで議論が止まらないように、市全体、そして将来を俯瞰した判断をしていきたいです。コメントありがとうございました。

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