鮪立の堤防高が1.8㍍下がった理由

宮城県が19日、気仙沼市唐桑町の鮪立漁港で計画していた防潮堤について、堤防高を海抜9.9mから8.1mに変更する方針を地元説明会で示しました。「堤防高は変更しない」と県は繰り返してきましたが、海底地形などを見直した津波シミュレーションを実施した結果、当初の計画より1.8m下がることになったのです。住民は5mでの整備を要望してきましたが、「鮪立の未来のため、先に進もう」と8.1mの計画案を受け入れました。

ここまでは、新聞報道にある通りですが、なぜ県が堤防高を変更したのかを説明します。

鮪立漁港は、自治会とまちづくり委員会が中心になって、防潮堤計画を話し合ってきました。大学教授らの支援もあり、25年2月に中学生を含めた全住民にアンケートを行い、半数近い住民が9.9mの計画見直しを求めていることを明らかにしました。そして、唐桑町史に記録されていた明治三陸津波の痕跡値が4mであったことから、余裕高を加えた5mでの整備を要望しました。7割の住民の署名も添えましたが、県の反応は冷ややかでした。しかし、地域はくじけず、堤防と道路を一体化させる県の妥協案を受け入れずに交渉を続けてきたのです。

打開策は、堤防高を決めた区域の変更でした。鮪立地区は隣の小鯖地区に比べて過去の津波被害が小さく、県が堤防高を決めるために行った明治三陸津波のシミュレーションでも7.5mという結果でした。それが9.9mになったのは、県が唐桑半島の西側の海岸を「ユニット」にまとめ、この海岸の中で最も高い津波高となった舞根漁港や小鯖漁港に統一して堤防の高さを決めたからです。鮪立地区はこのユニットの枠から外れることで、7.5mというシミュレーション結果で堤防高を決めようとしたのでした。

EPSON MFP image議論が硬直する中、宮城県知事は26年3月の県議会で「7.5mを下限に議論することはできる」と表明。知事の指示をもとに再検討に着手しました。地域の要望もあり、鮪立漁港の湾口部にある岩礁(図=県配布資料)も津波シミュレーションに反映させたほか、防潮堤も海岸線から後退した位置に設定した結果、鮪立地区のレベル1津波最高水位は「7.1m」になりました。これに余裕高を加えた8.1mへの変更が認められたのです。県は「岩礁によって湾内への津波流入量が減少したことで水位が低下した」と説明しています。

EPSON MFP imageさらに、景観悪化、海岸と生活エリアとの通行遮断を心配する住民の声にも対策を示しました。見た目の堤防高を下げるため、防潮堤の上を走る道路の高さを7.1mとして、1mの胸壁のように見える案()、防潮堤の中を通る通路の設置などを提案しました。26年中に詳細設計を行い、27~29年度に工事を行う予定です。

「危険区域が拡大」

問題は気仙沼市が指定している災害危険区域(図㊤が現在の災害危険区域。図㊦は8.1mでの危険区域)への影響です。24年7月の指定は、9.9mの防潮堤整備が前提となっており、8.1mに下がると災害危険区域は拡大するのです。危険区域は新しい防潮堤を整備しても、レベル2津波で浸水するエリアを指定しています。市のシミュレーション結果では、8.1mに変更すると、区域は山側に20mほど拡大し、震災後に移転新築した民家も災害危険区域に入ってしまうそうです。9.9mの防潮堤だと、防潮堤を越えてくる津波の量は0.2万㎥ですが、8.8mだと約70倍の13.7万㎥になります。9.9mなら災害危険区域の想定津波浸水深は1m未満ですが、8.1mだと堤防高と同じ高さまで津波が溜まってしまいます。背後地の地盤高は2m程度なので、浸水深は最大6.5mになり、盛り土かさ上げをしても民家は建てられなくなります。こうした事情を市は影響を受ける住民に戸別に説明し、理解を得ているといいます。
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地元説明会では、「専門的な言葉が多くて話し合いがしにくい」「海が見えないと避難に影響する」などと反対意見もありましたが、「同じ話の繰り返しになるので、県の案を素直に受け入れたい」「ありがたい提案。これで進もう」と賛成意見が相次ぎ、住民が拍手で計画への賛同を求めたところ、70人のうち60人ほどが拍手していました。苦渋の決断として受け入れた住民もいましたが、「100年後の子孫のために」とくじけずに県との交渉を続けてきた皆さんは本当にすごいと思います。地域愛が勝ち取った「180㎝」だったと思います。

私は県の柔軟な姿勢も評価する一方で、このタイミングで方針変更することの影響を考えています。県知事は22日の記者会見で「高いに越したことはないという県の意思を貫き通せば、まちづくりが遅れてしまうので、話し合いで落としどころを見出した。鮪立は完成すれば住民は必ず喜ぶと思う」とコメント。ほかの地区への影響については、「特はすでに合意した分は決めた通りだが、これから調整する分は検討する。知事は意固地ではない」と記者の質問に答えています。気仙沼市内のユニット(気仙沼市の堤防高設)では、市管理の鶴ヶ浦漁港(9.9m→7.6m)など何カ所かで、この新ルールに基づいた堤防高変更が可能になりそうです。災害危険区域拡大という問題があり、住民が望むかどうかはわかりませんが、住民の希望に関係なく、行政側には説明責任があると考えています。

なお、津波シミュレーションの海底地形設定のもととなった海図は、けっこうアバウトな面があります。リアス式海岸のように岩礁が多い地域では、岩礁をしっかり測量してシミュレーションに反映させた場合、影響の大小は別として堤防高はほとんど変更となる可能性さえあるのです。特に岩井崎と大島の間の海底には、「天然の堤防」と研究者が指摘するかつての稜線があり、このデータを正確に反映させた場合、気仙沼湾全体のシミュレーションが覆ることだってありえます。震災直後から津波研究者が「津波シミュレーションの限界」を話していました。こういうことだったのかと、今頃になって痛感しています。

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