大島で分かった「津波シミュレーション活用術」

気仙沼市の大島で、防潮堤の議論が白熱しています。大谷、小泉、内湾、鮪立などで津波シミュレーションの詳細な説明が行わたれことはありますが、大島の浦の浜ではさらに踏み込んだ議論に発展しており、津波シミュレーションについてより深く知ることができます。

離島である大島は、海への思い入れが深く、震災後の巨大防潮堤計画には異論が多い地区です。これまでも、海抜11.8㍍の防潮堤を計画していた田中浜、小田の浜を原形復旧に変更させ、小田の浜でも安易な原形復旧を拒んで工事入札を中止させています。海への強い思いが、県の新たな対応を引き出したのです。

■浦の浜は「想定宮城県沖地震」で堤防高7.8㍍

そんな大島の玄関口である浦の浜には、海抜7.8㍍の防潮堤が計画されています。大島の西海の堤防高は、明治三陸津波を防ぐ7㍍ですが、浦の浜だけは「想定宮城県沖地震」をレベル1津波にしたことで0.8㍍高くなりました。下表は堤防高を決めるための資料です。東日本大震災では9.1㍍の津波が襲来しています。

気仙沼市の堤防高設定根拠_page009

宮城県が示した堤防高に対し、住民は「過去にそんな大きな津波はなかった」と反発しました。県の資料でも、明治三陸津波、昭和三陸津波ともに5㍍以下、想定宮城県沖地震も5㍍程度の結果になっていますが、これに防潮堤ができたことによる「せり上がり」、そして「1㍍の余裕高」を加えると、7.8㍍になるのです。

ここまではご存知の方は多いと思います。ここからが本題です。

■復興懇談会を設置

防潮堤計画が合意されないまま震災から4年が経過しましたが、浦の浜の場合は大島架橋へアクセスする県道にも影響するため、27年6月6日に「大島浦の浜・磯草地区復興懇談会」が設置されました。事務局は気仙沼市商工課で、大島の各団体の代表、子育て世代、地区代表、県、市も構成メンバーです。商工課が事務局になったのは、復興予算を活用した「大島ウェルカムターミナル」を防潮堤背後地に計画しているからです。

IMG_3124この懇談会の説明内容に驚きました。1回目の会議では、防潮堤の位置を比較し、海岸線沿いに整備した場合と、セットバックした場合のメリットとデメリットを整理。無堤化の場合のレベル2津波シミュレーション結果も示され、災害危険区域の拡大範囲が分かりました。9月5日の3回目の会議で、湾口防波堤を整備した場合の効果、堤防高を下げるための工夫が示され、県側から30㌢下げる手法が提案されたのです。

こうした説明は当たり前のようですが、ほとんどの地区では十分な説明がないまま計画が決まっています。堤防高を下げる工夫が提案されたのは、内湾など一部の地区だけ。これから詳しく説明しますが、堤防高を下げる方法はいくつかあるのです。

■レベル1津波の浸水域を提示

県が示した資料をもとに、堤防高を下げる仕組みを考えてみます。まずは堤防高を決める根拠となった想定津波高6.8㍍の位置が示されました(図㊤)。このときは海岸線を囲むように防潮堤の位置が設定されていました。この防潮堤がないと、17軒の民家や店舗などが想定宮城県沖地震津波で浸水してしまいます(図㊦)。

当初の堤防位置設定(シミュレーション)

シミュレーション無堤化区間を考慮した

 

■セットバックで津波水位60㌢上昇、原因は「反射波」

防潮堤を海岸線に整備すると漁港として機能しなくなるため、住民説明会ででは、セットバックする計画がすでに示されています。背後が崖で民家のない区間では無堤化にするところもあり、変更内容を反映させた津波シミュレーションを新たに実施しました。なんと、その結果、最大水位が0.6㍍上昇し、8.4㍍の防潮堤が必要になってしまったのです。無堤化区間を考慮したシミュレーション②理由は津波の「反射」でした。浦の浜の想定津波が周辺より高くなったのは、対岸(尾崎地区)で津波が反射してくるからと考えられています。津波シミュレーションは、こうした反射波も計算します。浦の浜の地形では、湾内に流入した津波が防潮堤によって反射するため、その反射が重なることで湾奥部の水位が高くなってしまったのです。防潮堤のセットバックによって、津波周期の組み合わせが変化したり、津波の這い上がりが発生したりすることも影響しました。

防潮堤による反射

セットバックによる水位上昇

 

■湾口防波堤は「事業化できない」

湾口防波堤(高さ6㍍)を設置した場合、水位が60㌢低減されることが分かりました。しかし、概算事業費が25億円にもなり、湾内の水質、船舶の航行に影響するため、「事業規模やデメリットから事業化はできない」と県が結論付けました。湾口防波堤は1㍍の余裕高も特例で撤廃できる可能性がありましたが、内湾でも導入は見送られています。

湾口防波堤の設定(断面図)

■シミュレーション結果から県が工夫⇒30㌢下がる

以上の結果のままでは進展がないので、津波シミュレーションで分かったことから県が対策を考えました。湾の形状を考慮して、津波の水位を抑えられるような位置に防潮堤を配置し直したのです。この結果、堤防高は当初より30㌢下がって7.5㍍になりました。

シミュレーション結果からの対応策

新たな防潮堤計画

セットバックのデメリット浮上

浦の浜での県の対応は、二つのことを教えてくれました。一つは、防潮堤の配置を工夫することで最大水位の部分を下げれば、堤防高も下げられるということ。もう一つは、防潮堤をセットバックすると、レベル1津波の水位が上昇することがあるということです。浦の浜のように、当初は海岸線に防潮堤を配置していたけど、住民との話し合いでセットバックしたケースは他にもあります。レベル2津波への影響も含めて、防潮堤の位置が変更された海岸は津波シミュレーションで安全性を再度確認する必要があるのかもしれません。

なお、浦の浜では、道路との兼用堤が認められたり、防潮堤の海側を覆土して緑化する案が示されていたりと、堤防高以外でもさまざまな工夫がなされています。防潮堤の背後地をかさ上げして、観光交流施設「大島ウエルカムターミナル」を建設する計画もあります。

道路兼用堤の提案

海側緑化のイメージ(鳥瞰図)

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■民間くぼ地のかさ上げも

さらに、防潮堤と県道整備によって窪地となる民有地を、ある程度かさ上げする案が県気仙沼土木事務所から示されました。県道工事で発生する残土2万4000立方㍍の範囲ですが、1~2㍍ほどかさ上げできる見込みです。

盛り土イメージ

■浦の浜のこれから

浦の浜の議論は、防潮堤、県道、ウエルカムターミナルが絡みあっています。防潮堤の計画を変更すれば、県道にもウエルカムターミナルにも影響するため、住民の中には「いつまでも防潮堤の議論ばかりできない」と考えている人も少なくありません。

堤防高については、想定宮城県沖地震の発生頻度などに疑問が残ります。余裕高やせり上がり分などを考慮して、住民が求めている「5㍍程度」を実現できるかどうかになりますが、県が知恵を絞って30㌢下げる案を示しただけでも他地区と比べれば大きな進展でもあるのです。住民が議論に疲れないように、専門家のサポート、期限を決めての話し合いが求められます。30年度に予定している大島架橋完成後の対応もあり、浦の浜だけでなく、大島全体の将来像をしっかり考える時期にきているのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

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