整備進むレベル1防潮堤【気仙沼市】

気仙沼市で新しい防潮堤の工事が進んでいます。6月2日の午前中、唐桑から面瀬地区の工事現場を見て回りましたので報告します。

東日本大震災のような巨大津波(レベル2)は防げませんが、明治三陸級の津波(レベル1)なら完全に防げる高さで、新しい防潮堤と河川堤防が整備されています。

出入口などの利便性にも配慮しなければならない漁港関係は着工が遅れていますが、宮城県土木部が所管する建設海岸や河川堤防は着々と工事が進んでいます。

■高さ11.3m  荒谷前海岸

唐桑町の北端にある荒谷前海岸は、海抜11.3mの傾斜堤が建設されています。28年3月の完成へ向けて本体はほぼ出来上がっていました。

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■後馬場海岸

唐桑町の中心部に近い石浜漁港の奥にある後馬場海岸でも、11.3mの防潮堤工事が進んでいます。こちらは台形の防潮堤です。現在、コンクリートの堤体を設置するための地盤工事が行われています。こちらは、海岸線からややセットバックした位置に防潮堤を整備します。

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■鹿折川

鹿折川には、河口から国道45号八幡大橋まで海抜5m、八幡大橋からは4.3mの高さで堤防を整備します。土地区画整理に合わせ、右岸側から工事を進めており、浪板橋上流では形が見えてきました。基本は盛り土してコンクリートブロックで被覆しますが、一部区間はコンクリート製の堤体になります。堤防が高くなることで、浪板橋と万行沢橋は架け替え、その中間に駅前に通じる橋を新設します。

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■商港岸壁

朝日町の商港岸壁には、海抜7.2mの特殊堤(直壁)が整備されています。圧迫感を軽減するため、等間隔で高さ60㎝、幅150㎝の窓を設置。厚さ3.5㎝のアクリル板でふさぎます。ツタ系植物による壁面緑化も検討しています。

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■気仙沼大川

気仙沼大川は、左岸側の堤防の盛り土が行われています。河口から曙橋までは直壁タイプ、あとは盛り土になります。盛り土はコンクリートブロックで被覆します。高さは7.2~3.4mです。土地区画整理で高盛り土する地区は、防潮堤と背後の地盤高がほぼ同じになります。

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大川 (1)_page006

曙橋、気仙沼大橋、神山川橋も架け替えます。橋が原因で避難時の渋滞が悪化したことなどを踏まえ、曙橋の下流に新たな橋を計画しています。

■片浜海岸

前浜から片浜にかけての片浜海岸では、海抜7.2mの防潮堤工事が進められています。松岩から階上にかけては、海を埋め立てて整備する防潮堤がほとんどです。片浜海岸でも石で埋め立ててから防潮堤の本体工事が始まりました。背後の道路は拡幅の予定です。

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■千岩田海岸

面瀬地区の千岩田海岸でも、防潮堤(海抜7.2m)のための埋め立て工事が行われています。千岩田の場合は、工事スペースがないため、堤防の海側に仮の矢板を打って工事用道路を用意します。このため、埋め立ての範囲も広くなりました。工事用道路は、防潮堤が完成した後に撤去します。

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■未合意の地区も

気仙沼市内のレベル1防潮堤は、すでに大谷地区の野々下海岸で完成したほか、沖の田、面瀬の台の沢、階上の最知、大島の高井浜大向などでも工事に着手しています。

一方、魚市場前や港町、浦の浜、大谷海岸、日門漁港など、計画そのものに地域の合意が得られていない海岸もあります。復興予算による新規の防潮堤整備には地元負担が生じる可能性が浮上しており、全額国費で賄える本年度内の予算獲得を目指すことなれば、これから議論が一層加速するものとみられます。

※写真は港町に設置された堤防高の看板。背後地に事業所などが再開したものの、「海や船の様子が見えなくなる」と反対意見が根強く残っています。

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7 Comments

  1. O.M

    先生、おはようございます。
    今回も地元負担について、質問させていただきます。
    昨日、気仙沼市が地元負担額の試算を発表しました。負担額は約10億円であり、その多くが防潮堤新設に関連する費用負担になっています。自治体が負担する額としては小さくないものであり、復興の遅れが進む自治体としては苦しい状況にあると推察します。
    そこで、一つ目に、地元負担の事業が可視化した現時点での、先生のお考えをお聞かせください。
    二つ目として、市としてはある程度織り込み済みだったとはいえ、防潮堤新設の地元負担が明確化になったことで、これが防潮堤反対の声を大きくさせる懸念があります。そこで、そういう声への対応を先生はどのように考えていますか。
    この二点について、先生のお考えを置きかせください。

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  2. 今川 悟 (Post author)

    O.Mさん、いつも質問ありがとうございます。

    復興事業の費用に対する地元負担ですが、被害の大小や復興のスピードによって市町村格差が出てしまうという論調ですが、やや疑問があります。
    というのは、復興交付金の効果促進事業は後出しでいろいろ認められてきたので、復興が早い自治体はそれほど活用できていません。復興特別税の交付も被害規模によって差が付けられています。防潮堤が遅れているのも新規事業のためで、もともと無かった場所に新設するのですから、個人的には地元負担は仕方ないと感じています。

    むしろ、地元負担が生じたことで、効果が疑問と思われる場所の防潮堤計画が見直されてほしいと期待しています。国が全額負担してきたことで、どこか他人事のような議論となった地域もあったのは事実です。

    地元負担が明らかになったこと、それに伴う資料からは、あれもこれも復興事業として国の全額負担で計画してきた事業が各市町村でいろいろあるということが分かりました。気仙沼市も震災前から計画していた都市計画道路、追悼祈念施設などへの全額負担を求めましたが、ほかの市町村では給食センターまで含まれていて驚きました。これでは、国民の理解を得るのは難しいと感じました。

    自治体も議会も住民も、自分のまちのことには熱心ですが、ほかと比較して整合性を考えるという視点は足りないのかもしりません。

    防潮堤は、全額国費負担を前提に合意形成していますので、反対派の住民が再考を求めることはありえます。ただ、負担率が低いので、大きな影響はないと思います。みんなが必要性について疑問に感じながら進めてきたところは、これをきっかけに再考しやすくなったことは間違いありません。私も何カ所が疑問な防潮堤がありますので、問題提起のチャンスをうかがっています。

    なお、復興に関連する事業の本来の負担率を考えれば、地元負担率はかなり小さいと思います。心配なのは、残り五年間の復興予算のフレームです。いくら地元負担しても、予算がなければどうしようもありませんし、査定が厳しくなれば意味がありません。

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  3. O.M

    『復興事業の費用に対する地元負担ですが、被害の大小や復興のスピードによって市町村格差が出てしまうという論調~』という先生の意見で、新たな視点を頂くとともに、私は非常に納得がいきました。いずれにしろ、先生は以前もおっしゃっていましたが『五年間の復興予算フレーム』がどうなるか、そこから何を描くことができるかが復興のカギになるようですね。

    そこで、質問をもう1つさせていただきます。
    『自治体も議会も住民も、自分のまちのことには熱心ですが、ほかと比較して整合性を考えるという視点は足りないのかもしりません』という先生の言葉に返答になるのですが、自治体間が同じテーブルで議論するというのは難しいのでしょうか。あわよくば、自治体の枠を超えて予算も絡めた実務上の議論は出来ないのでしょうか。

    私が先生のやり取りの中で、「東日本大震災では国の交付金で、1市町1つずつ遺構を保存できる(1 自治体1つ、初期費用に限定)」という方針に前々から疑問に思っていました。なぜなら、この方針が逆に自治体間の連携を削ぐ形になったのではないか、と感じたからです。たしかに、遺構を残し、津波の教訓を伝えるのは大事なことです。しかし、遺構の運営を考える上で、話題性、悲劇性、希少性、歴史性、象徴性というファクターを考慮したドライな議論はどうしても避けられません。私の率直な思いになりますが、被災地全体で考えると、現状では震災遺構の数が多いと感じます。
    やはり、震災の問題に本気で取り組むなら、オール宮城、オール東北という大枠での取り組みは不可欠です。しかし、抱える問題が大きいという自治体の事情を察することはできますが、外の目がないとどうしてもなんとか責任回避という内向きに話が進みます。昨日の南三陸の防災庁舎県有化請願先送りのニュースにも、あまりいい気分がしませんでした。
    質問が長くなりましたが、そのような考えの元、先程の質問をさせていただきました。
    よろしくお願いします。

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  4. 今川 悟 (Post author)

    自治体同士が同じテーブルで議論することですが、会議はたくさんあるものの、建設的な議論にはなっていないようです。それは宮城県や復興庁の仕切りの問題かもしれません。

    復興事業が全額国費負担になり、復興庁の査定が条件となったとき、やはり復興庁が被災地全体のバランスを考えて震災遺構や予算配分を導くべきだったと思います。ところが、復興庁自体も国交省や財務省から職員を集めて成立しているので、期待していたようなリーダーシップはとられませんでした。

    そもそも、被災自治体のエース級の職員たちは地元での仕事量が多すぎて、外へ出て情報収集・議論するような時間は制約されています。復興は仕上げの方が大切です。なおさら復興庁の出番だと思います。では、誰が復興庁の役割を考えるのかというと、あまり議論になっていないことが心配です。

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  5. O.M

    先生、丁寧な回答いつもありがとうございます。
    度々になりますが、質問を重ねさせていただきます。先生の話から、国と自治体職員の両方のワークバランスに問題があると先生のお話から窺えたのですが、そこには公務員の定期異動が当たり前である点も問題視すべきところなのでしょうか。

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  6. 今川 悟 (Post author)

    公務員の異動(特に管理職)は問題の根幹です。定期異動によるメリットもたくさんありますが、復興期のように継続性と専門知識が求められる場合、なるべく異動は避けたいところです。
    市役所はまだいいほうですが、宮城県はひどいです。これだけ問題となっている防潮堤の担当者が震災後に3回も代わっています。
    県から『派遣』されている副市長も2年交代の暗黙ルールがあり、震災後に3人目になりました。
    異動したばかりの職員にも、市民は丁寧な説明や対応を求めます。結果、混乱するわけです。
    市役所の対策としては、やはりキャリアコースと専門家コースを分けることです。キャリアコースはどんどん異動して能力を高め、専門家コースは落ち着て経験を高めるような選択肢が制度としてあればいいと思います。
    年金支給年齢の引き上げにより、再任用の職員が増えています。そうした人たちを指導役にすることもできます。

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  7. O.M

    先生、回答ありがとうございます。
    「防潮堤の担当者が震災後に3回」という部分は予想していたことですが(この予想もあまりほめられたことではありませんが…)、副市長も県からの事実上の派遣という部分には非常に驚きました。
    これでは管理者(職)以外が事情を把握している状況と推察しますので、管理者もリーダーシップの取りようもないと思います。
    地方分権、地方分権と叫ばれて久しいですが、地方の「県」と「市」の間でもこのような問題があることを初めて知りました。ありがとうございました。

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