防災集団移転の地盤強度問題の解説

最近、防災集団移転で造成した団地の地盤強度が問題となっています。発端は気仙沼市内で完成第1号となった登米沢(とよまさわ)団地で、住宅の保険会社から地盤の強度不足が指摘され、くい打ち費用を住民が負担したことでした。これは欠陥住宅と判明した場合の補償費用を担保する「瑕疵(かし)担保責任」という制度で保険加入などが義務付けられていることが理由で、防災集団移転だけでなく、災害公営住宅、土地区画整理を含め、盛り土した宅地にすぐに住宅を建てる全ての復興事業に影響する恐れがあります。

瑕疵担保責任は、建築士による耐震強度の偽装、欠陥マンションの販売などが社会問題となったことを受け、売主が倒産しても補償されるように保証金の供託か保険加入を平成21年から義務付けました。資金力のある大手ハウスメーカーは建築戸数に応じた保証金を国に供託しましたが、地方の建設会社は保険会社を利用しています。地盤については建設会社が業者に委託して強度を調査して専門業者の判定を受け、地盤改良の必要性、住宅基礎部分の種類を判断します。保険会社はこの内容をチェックした上で、保険加入を受け入れることになります。

基礎設計のための判定項目登米沢団地は、市が造成完了時に行った検査で、建築基準法に基づいて普通の基礎で施工できる強度があることを確認しました。しかし、建築会社は保険加入のために杭打ちをしなければならなかったのです。普通の「べた基礎」や「布基礎」に対し、基礎杭は安定した地盤がある深さまで杭を打つので、経費は普通の基礎よりも100万円高くなってしまいました。原因を調べると、保険加入のための基礎設計は、地盤調査の測定結果だけでなく、➀高さ1m以上の擁壁がある➁傾斜地の造成で盛り土部分がある➂50㎝以上盛り土したのに造成から10年未満➃解体残物等異物混入の敷地・・が一つでも確認されると、何らかの対策が求められる可能性が高いことが分かったのです


法律上は地盤強度に問題がないので、保証金を供託して自己責任で建設を判断できる大手ハウスメーカーは普通の基礎で建設します。その一方で、中小の建設会社が加入する保険会社は、万が一のリスクを考えると慎重に判断してしまいます。この結果、中小の建設会社だと基礎杭などの対策が求められてしまい、行政が「大丈夫」といっても業者は「対策が必要」という相反する答えとなってしまいました。国が保険会社に行った聞き取り調査で、斜面地で盛り土造成した宅地の地盤補強について、全5社のうち2社が「概ね地盤補強されている」、2社が「地盤補強されているものが多い」(残る1社は「不明」)と回答しており、全国的に地盤補強が必要となっていることが分かっています。

気仙沼市の防災集団移転は、966区画のうち530区画が盛り土になります。「造成から10年以内」というチェック項目に該当した場合、すべて対策が必要になるとすれば、広範囲に影響するのです。3m以上かさ上げする場所もある鹿折と南気仙沼の土地区画整理事業、防災集団移転に併設する災害公営住宅にも波及し、特に通常の基礎を想定している災害公営住宅(地元業者グループに全委託する戸建て・長屋タイプ)で杭打ちが必要になれば完成時期が遅れる心配もあります。

IMG_0333国に対策を求めましたが、瑕疵担保責任は被災地に限った制度ではなく、すぐに内容を見直すことは不可能です。復興事業で地盤問題を受け、26年9月11日付けで国の関係4課長が宮城県に出した事務連絡では「地盤補強のための費用負担が発生する場合があることを事前に説明して理解を得ておくことが望ましい」「移転者が住宅建築に関する情報を十分に有していない場合が多いと考えられるので、相談に力を入れてほしい」などとしています。要約すれば、盛り土した宅地に急いで家を建てるのに地盤補強は必要になるのだから、事前に説明して理解してもらってほしいという見解と受け止められます。つまり、制度の問題とはとらえていないのです。

同様の問題は、南三陸町でも発生しており、県は防災集団移転に限定して実態調査に乗り出しました。その調査は、造成時の地盤の強度設定、引き渡し時の検査の有無、移転者への事前説明などを確認する内容でした。質問内容からすると、県は設定した基準以下の地盤強度不足は問題視するが、それを上回っているのに保険加入のために地盤補強するケースへの対策は考えていないようです。この問題への対応は、「強度不足の防止」と「強度補強の支援」に分かれているのです。報道されている南三陸町と岩手県陸前高田市の問題は「強度不足」ですので、気仙沼市の「強度補強」とは異なります。

登米沢団地
以上のように、いろいろと原因は分かってきましたが、実は専門業者による地盤調査結果への「考察」の内容はまだ分かっていません。このため、現段階では「他の団地でも同じような問題が起こるかもしれない」という想定しかできません。ただ、気仙沼市は完成時の地盤強度検査(1区画2カ所)について見直しを表明しています。登米沢では区画の中央付近でチェックしたのですが、これからは擁壁の近くや、保険加入と同じように基礎予定箇所(分かっている場合)でのチェックを行うこととしました。当然、指定した強度以下の場合は、造成業者にやり直しを求めます。すでに検査済みの登米沢団地でも、再チェックすることを検討しています。

市民の心配は、やはりお金です。ギリギリの予算で資金計画を立てている人は少なくなく、100万円の負担増は大きな問題です。これは防災集団移転に限らず、平地が少なく浸水対策も求められる地域で被災世帯が急いで再建する場合の共通問題になります。住宅再建に対する市独自支援策の適用拡大、宅地の価格評価への反映など、さまざまな視点で対策を考えていかなければなりません。

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