高校体育館を庁舎にした氷見市はすごい

「閉校になった高校の体育館を市役所の庁舎にした」というニュースを知り、興味津々だった富山県氷見市。しかも、そこの市長は、東日本大震災からの復興に必要と感じていた「ファシリテーター」(話し合いを上手に進める人)から転身し、新庁舎にさまざまなアイデアを取り入れています。そんな氷見市を訪れることができましたので、レポートします。

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氷見市は能登半島の付け根に位置する海辺のまちで、寒ブリで有名です。人口は約5万人。その地方都市が、庁舎の建て替えという難題に直面しました。昭和44年に建設された旧庁舎は、東日本大震災後の耐震基準を満たせず、想定される津波の浸水域に入ったのです。

当初は新築移転の方針でしたが、想定される総事業費は莫大だったそうです。移転は必要だけど、お金がない…。全国の多くの自治体が抱える問題を解決したのは、23年4月に閉校した県立有磯高校の活用という市職員の提案でした。教室は壁があって制約されるが、体育館なら多目的に利用できるとまで考えたのです。

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校舎は耐震補強が必要でしたが、雪国使用で頑丈だった体育館2棟を改修して本庁舎にしました。校舎は3棟のうち2棟を解体し、残る1棟を耐震補強して会議室などにしました。総事業費19億4千万円。緊急防災・減災事業債を活用したので、市の負担は8億円程度で済みました。新築移転した場合の三分の一だったそうです。

ここまでの話なら、お金の節約だけで終わるのですが、氷見市のすごいところは庁舎の中身です。体育館は天井が高いので、東京ドームで使われているような白いテントを設置して、暖房効率を良くしました。広い空間を活かして、窓口はワンストップです。さまざまな手続きを一つのフロアで済ませることができます。庁内の案内にも住民に分かりやすい工夫が見られました。部署間を隔てる壁がなくなったことで、縦割り行政が解消され、市民とのふれあいも増えるという効果がありました。

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市長室の一部はガラス張りで、庁議や記者会見を行う会議室も外から丸見えです。打ち合わせ用のオープンスペースが随所にあり、壁がホワイトボードになっていて説明にいつでも使えるようになっていました。こうしたアイデアは市民とのワークショップで考えました。25年4月に当選した本川祐治郎市長(46歳)が自らファシリテーターを務め、条件を決めてゼロベースから話し合ったそうです。仕事の効率を上げるため、市長が上場企業のオフィスを見学して歩き、壁がないオープンなオフィスの意義を実感してきたという裏話もあります。

「市民参加と協働・防災のデザイン課」「観光・マーケティング・おもてなしブランド課」「商工・定住・都市のデザイン課」。課の名前を見ただけで、戦略的な考え方を感じます。

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玄関に視察者を歓迎する紙が貼ってあったり、ちょっとしたスペースに子供用のおもちゃが置いてあったりと、おもてなしの心があふれた市役所でした。玄関にいるフロアマネージャーは職員が交代で担当し、市民を案内しています。職員もイキイキしていて、防災担当の新入職員から気仙沼の取り組みを逆質問されました。明るく開放的な庁舎だから、より一層イキイキして見えたのかもしれません。
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駐車場は、中心市街地にあった旧庁舎の4倍の300台分を確保し、200台分は職員用に割り当てました。市街地から1㎞ほど郊外に移り、商店街から離れたことによる地域経済への影響を心配しましたが、職員が昼食の出前を頼むことで解決しているようです。お話を聞いた市民も、駐車場が広くなったことを喜ぶとともに、新しい市役所を誇りにしていました。公共施設のマネジメント計画づくりはこれからだそうですが、その内容も注目したいです。

余談ですが、視察は富山市で翌日開かれた不動産学会への参加に合わせた個人的なものでした。時間の調整ができず、本川市長とはお会いできない予定だったのですが、お話することができました。そして、急きょ、被災地の様子をミニ講演する時間を頂き、20人ほどの職員の皆さんの前でプレゼンテーションしてきました。さすがファシリテーターの市長が監修したスペースは、発表しやすかったです。視察者を「タダでは帰さない」と突発的なセミナー開催は日常茶飯事のようで、なんと柔軟で自由な組織だと驚きました。全国からの視察が後を絶たない一因を垣間見ました。すっかり氷見ファンになってしまいましたので、次は家族を連れて再訪したいです。

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先日行われた氷見市議会議員選挙では、定数17人のうち9人が新人の当選でした。若い市長、全国に注目される庁舎という雰囲気の中、新人が立候補しやすい雰囲気だったのかもしれません。まちが変わっていく流れを肌で感じることができました。いろいろな人が意見を出し合う「ヒューチャーセッション」という手法も、アイデア勝負のこれからの時代に大切になると感じました。

復興途上の気仙沼市でも、小・中学校と高校、保育所の統廃合が予定されています。氷見市のように現市役所の近くに空き校舎が出る見込みはありませんが、お金をかけなくてもアイデアと熱意で良いものができるということを氷見市に教えてもらいました。ちなみに、気仙沼市役所の本庁舎は昭和35年の建設です。第二庁舎の建設年次はさらに古く、旧鼎が浦高校の木造校舎を活用しています。

※ご紹介いただきました槻橋先生、ありがとうございました。

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2 Comments

  1. 一色 法人

    体育館を庁舎にとは、今まで考えたこともなかったです。
    関西でも、建て替えによって過剰に豪華な庁舎を建築し、その後の財政状況の悪化を招いて批判にさらされている自治体が見られます。
    今後、既存の公共施設・用地の活用は喫緊の課題ですね。
    仕事上、PRE(Public Real Estate)戦略についてちょっと調べたこともあるのですが、やはり先進事例に学ぶところが大きいなと氷見市の事例を見て感じました。
    気仙沼の場合、既存の施設のみならず、災害危険区域に指定されて買い取った土地などの集約・活用についても大きく課題としてあると思いますから、公共施設・用地の利用などについて継続的にプランを考える取組みがあればなと思っています。

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    1. 今川 悟 (Post author)

      マイナス要因をプラス要因にするのはアイデアですね。提案したのは40代の中堅職員だそうです。若手ではなく中堅というのがミソな気がします。

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